遺贈寄付とは
遺贈とは、自身が亡くなった時に遺言によって財産の一部、または全てを相続人以外の人や団体に無償で譲渡することを言います。そして社会貢献を目的に第三者や公益法人、NPO法人、学校法人などの団体や機関に寄付することを「遺贈による寄付」と言います。
日本では寄付の文化が進んでいないと言われていますが、それは寄付はお金持ちがやること、資産が少ないから自分には関係ないと誤解されている人も多いからではないでしょうか。遺贈寄付は、数万円の少額からでも行うことができる最後のお金の使い方です。そして最後に残った財産や、その一部を遺贈寄付することで、自身の想いを社会や子孫へと託すことができる相続方法のひとつです。
遺贈寄付の種類
遺贈寄付にはこのような種類があります。
- 遺言書による遺贈寄付
-
遺言書を書く時に本人の意思によって、相続人以外の人または団体へ行う遺贈寄付。
遺贈者(財産を渡す人)は遺言者となる。 - 相続財産による遺贈寄付
-
相続財産によって受け取った財産の中から相続人以外の人または団体へ行う遺贈寄付。
遺贈者(財産を渡す人)は相続人となる。 - 信託による寄付(参考)
-
委託者(お金を預ける人)と受託者(お金を預かる人)受益者(利益を受ける人)で契約して寄付をする方法。信託銀行が取り扱う金融サービスと、個人間で契約する民事信託があります。
- 生命保険による寄付(参考)
-
生命保険信託を利用して、死亡保険金を寄付先に寄付する方法。通常の生命保険契約では保険金の受け取りは相続人もしくは近しい関係の人しか指定することが出来ない為、保険金を第三者へ寄付したい場合は生命保険信託を利用します。
- 死因贈与による寄付(参考)
-
遺言や信託と同じく、本人の意思で寄付をする方法として、死因贈与契約があります。生前に遺贈者(財産を渡す人)と受贈者(財産を受け取る人)の間で、遺贈者が死亡することを条件に財産を贈与する贈与契約で、遺言書での遺贈と違い双方の合意が必要です。
遺贈寄付の具体的な方法
遺贈寄付の方法については、「金○○万円」「○○銀行の預貯金のうちの○%」等、財産を具体的に指定する「特定遺贈」または後述する「清算型遺贈」に大別されます。
特定遺贈の場合、遺贈を受け取る人(受遺者)には財産を継承する権利のみが与えられ、被相続人がマイナスの債務を持つ場合でも債務を継承する義務はありません。遺言の効力発生と同時に財産の所有者が受遺者に移り、相続財産は遺産分割から外れるため、遺言執行者が名義変更の手続きを行うだけで遺贈が完了します。そのため、遺留分*を侵害しておらず、かつ遺贈する財産が現金のみの場合は、受遺者にとって負担の少ない方法となるため、寄付先の多くの団体はこの方法を希望しています。
遺留分は、相続人に認められた最低限度の遺産取得割合が与えられなかった時に請求できる権利です。
遺留分の認められる相続人は被相続人の配偶者、子、孫など直系卑属と、親や祖父母などの直系尊属です。兄弟姉妹(甥、姪)は認められていません。
遺贈寄付によって遺留分を侵害する遺言を遺したとき、相続人から遺贈先に対して遺留分侵害額請求をされると、遺贈の効果が遺留分割合に応じて否定されます。そして相続人が受遺者または受遺団体と交渉する必要が出てきて、不動産価格の評価方法について紛争になることもあります。このようなことを避けるためにも遺言書を書くときは遺留分を侵害していないか配慮する必要があるでしょう。
また遺贈の方法の一つに今の住まいや、残った財産を個人や団体に譲渡したいと考えたときに、死亡後に不動産を売却した代金から売却にかかる費用や税金、生前の負債を清算して得た金銭の全部、または一部を指定して遺贈する「清算型遺贈」があります。
現金以外の財産である不動産などの物的財産を処分し、お金に換価してから譲渡する「清算型遺贈」の場合、不動産のまま遺贈するケースと違って、亡くなってから不動産を売却するまでに時間がかかってしまうことが想定されます。もし相続人が遺贈を快く思わない場合には、登記して第三者へ売却してしまうといったリスクがあるため、遺言執行者を選任して速やかに手続きを完了させる必要があります。また売却するためには相続人が不動産の取得をしないにも関わらず、一度法定相続分通りに登記する必要があります。所有権が一度相続人となるため、納税義務者は相続人となり、売却した財産にみなし譲渡所得税が課税されるため注意が必要です。
みなし譲渡所得税は、不動産や株式の特定遺贈をする場合に時価で売却されて譲渡益が出たものとみなされて所得税が課税されることを言います。利益を受けるのは受遺団体にも関わらず、不動産にかかる譲渡所得税は相続人が支払う必要があるため、相続人としては納得できず問題になることも少なくありません。
そのため、相続人へ税金の負担分を用意しておくか、だれが負担するのか等、遺言書に税金の負担について一文を加えておくことをおすすめします。
遺言書で遺贈寄付する書き方
ここからは、遺贈者本人の想いを形にするために遺言書による遺贈寄付の手順と書き方について解説していきます。
遺言書の民法の形式に沿ったものでないと無効になってしまいます。それぞれの様式に合わせた遺言書を作成しましょう。自筆で書く自筆証書遺言でも構いませんが、財産の特定がされていなかったりといった不備の心配や紛失などのリスクがあるため、公正証書で作成することをおすすめします。
遺言による遺贈寄付までの流れ
それぞれの寄付形式における遺言書の書き方
以下に遺贈寄付するときのひな型を用意しましたので、参考にご覧ください。
財産を金銭に換価して寄付する遺言形式(清算型遺言)
遺言書
遺言者○○太郎は、次のとおり遺言する。
第○条 遺言者は、その有する次の財産の全部を換価し、その換価金から遺言者の一切の債務を弁済し、かつ相続財産に関する費用、遺言の執行に関する費用、遺言者の葬儀・埋葬費用を控除した残金を認定NPO法人○○(所在地)に遺贈する。*①
(1)土地 *②
所在 大阪付大阪市旭区○丁目
地番 ○○番○○
地目 宅地
地積 ○○〇.○○㎡
(2)建物
所在 大阪付大阪市旭区○丁目○○番○○
家屋番号 〇○○番○
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建て
床面積 1階○〇.○○㎡
2階○〇.○○㎡
第○条 (省略)
第○条 遺言者は本遺言の遺言執行者として下記のものを指定する *③
記
(事務所) 大阪府大阪市○○区△△ー○
(職業) 専門家を指定することをおすすめ
(氏名) ○○ △△
(生年月日)昭和○○年△月△日
2項 遺言執行者は本遺言に基づく不動産に関する登記の手続きならびに預貯金、有価証券の一切の金融資産の名義変更、解約、払い戻し及び貸金庫の開扉・解約その他本遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有する。
令和5年10月16日
大阪府大阪市旭区○○丁目○○番地
遺言者 ○○太郎 印
*① 遺贈先の名称と所在地を記載する。
*② 譲渡する財産を明確に書きましょう。特に不動産については登記簿謄本のとおりに記載します。
*③ 清算型遺贈の場合、遺言執行者を指定しておくことが重要です。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理その他の遺言に必要な一切の行為を行う権利義務を持ちます。そのため相続人の手を煩わすことなく、速やかに遺言の内容を遂行することが可能になります。
中立的な立場の人を指定することで、相続人との間で無用なトラブルを回避することが出来るでしょう。
遺言執行者は受遺者や相続人でもなることは可能ですが、財産の換価、清算、配分を相続人が行うことは、他の相続人との間に無用な軋轢を生む可能性があるため、妥当ではありません。また実行するために専門的な知識や経験が必要なので、相続人以外弁護士など専門家を指定したほうが良いでしょう。また、遺言執行者が指定されている場合、相続財産は遺言執行者の管理下にあり、相続人には管理処分権がないので、万が一相続人が勝手に財産を処分したとしても無効になります。指定していない場合は無効にならないことから、遺言の内容を実現するためには遺言執行者を指定しておくことが重要です。
特定の財産を換価せず寄付する遺言形式
遺言書
遺言者○○花子は、次のとおり遺言する。
第1条 私は、その有する以下の不動産を医療法人○○(所在地)に遺贈する。*①
(1)土地 *②
所在 大阪付大阪市旭区○丁目
地番 ○○番○○
地目 宅地
地積 ○○〇.○○㎡
(2)建物
所在 大阪付大阪市旭区○丁目○○番○○
家屋番号 〇○○番○
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建て
床面積 1階○〇.○○㎡
2階○〇.○○㎡
第2条 私は、その有する以下の財産を甥である○○一郎(昭和〇年〇月〇日)と姪である△△すみれ(昭和〇年〇月〇日)に相続させる。
(1)預貯金
○○銀行 △△支店 普通預金123456
○○信用金庫 ××支店 普通預金123435
第3条 私は、私の債務、本遺言の執行関する費用及び第1条の遺贈に伴って発生する税金について、甥の○○一郎(昭和〇年〇月〇日)に負担させる。*③
第4条 遺言者は本遺言の遺言執行者として下記のものを指定する
記
(事務所) 大阪府大阪市○○区△△ー○
(職業) 専門家を指定することをおすすめ
(氏名) ○○ △△
(生年月日)昭和○○年△月△日
2項 遺言執行者は本遺言に基づく不動産に関する登記の手続きならびに預貯金、有価証券の一切の金融資産の名義変更、解約、払い戻し及び貸金庫の開扉・解約その他本遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有する。
令和5年2月16日
大阪府大阪市旭区○○丁目○○番地
遺言者 ○○花子 印
*① 遺贈先の名称と所在地を記載する。第三者へ譲渡する場合は「遺贈する」と書くこと。
*② 譲渡する財産を明確に書きましょう。特に不動産の場合は登記簿謄本のとおりに記載します。
*③ 不動産や株式を遺贈する場合、不動産取得税や登録免許税、みなし譲渡所得税が課税されます。特にみなし譲渡所得税は受遺者ではなく相続人に納税義務があるため、トラブルにならないよう誰が負担するかについて明記しておきましょう。本文記載例は、相続人に負担させる場合を想定しています。寄付を受け取る側に負担させる場合は、下記文例を参考にすると良いでしょう。
第3条 第1条の遺贈に伴って発生する税金は、医療法人○○が負担するものとする。
遺贈するときに留意するポイント
ポイント①:受遺者が先に亡くなると遺贈が無効になる
遺産を受け取る受遺者が、被相続人より先に亡くなるとその遺贈は無効となり、受遺者の家族がそのまま遺贈を引き継ぐことはありません。
そのため、受遺者の家族に遺贈を引き継がせたい場合は、受遺者が先に死亡した時に備えた遺産の取り扱いについて遺言書へ記す必要があるでしょう。
ポイント②:遺贈先、団体によっては受け取り出来ない場合がある
社会福祉財団やNPO法人などに遺贈寄付したい場合、どんな財産でも遺贈できるわけではありません。遺贈で受け取れない財産を定めている団体もあるため、事前に寄付先に確認しておく必要があります。
特に以下のような売却や活用が難しい不動産はそのまま遺贈できない場合があります。清算型遺贈を検討しましょう。
- 山林や農地
- リゾートマンション
- 権利関係の複雑な不動産
ポイント③:相続人に納得感を持ってもらうために「付言」を活用する
遺留分を侵害していない遺贈であっても、相続人が被相続人の相談財産に期待していた場合、相続人と受遺者、団体との間でトラブルになるケースがあります。例えば相続人が兄弟姉妹のときに、「○○法人に全財産を遺贈する」という遺言書が遺されていた場合に「寄付先の団体に騙されたんじゃないか」「無理やり寄付を迫られて断れなかったのではないか」といった疑念を生じさせる可能性があるからです。
社会貢献や、団体の活動を応援するために残した遺贈寄付の遺言書が原因で、トラブルに発展してしまっては本人の想いに反する結果となってしまいます。このような事態を避けるためにも付言事項の活用をおすすめします。
付言事項とは、法的効力を与えることを直接の目的としない記載事項のことを言います。簡単に言うと法的効果を持たないメッセージ欄です。家族への感謝の気持ちや、葬儀・納骨に関する希望など、遺言者本人の想いをメッセージとして記載することが出来るので、遺贈寄付する場合も、なぜこの団体に寄付をしようと思ったのか、動機や社会貢献への想いを記載しておくことで、本人の意図や心情を伝わり相続人の理解を得られる可能性も高くなるでしょう。
JPコネクト行政書士事務所では
初回相談は無料です
お電話での問い合わせはこちらから
06-6998-2001
受付時間 平日9:00~17:00