遺言・遺言書とは
遺言(いごん・ゆいごん)とは、自分の財産をどのように残したいのか最終の意思表示を反映させるための唯一の手段です。またその意思表示を書面にしたものが遺言書です。
遺言を用いることで、自分の築いた財産をある程度自分の意思に沿う形で相続人に分配することが可能になりますので、相続トラブルを未然に防ぐためにも遺言書を残すことをお勧めします。
遺言書に法的効力ある事項は「相続に関すること」「財産の処分に関すること」「身分に関すること」の3つの事項になります。
- 相続に関すること(法廷相続分と異なる分配、相続人の排除 など)
- 財産処分に関すること(遺贈 など)
- 身分に関すること(子供の認知 など)
遺言書を書いたからと言ってその内容がそのまま全て認められるわけでありません。たとえ誰か一人に全財産を相続させることを記載したとしても遺留分の権利は消えないため、記載には注意が必要です。
遺留分とは、法定相続人に保障された最低限の遺産をもらえる権利のことを言います。
遺言書の種類
作成できる遺言書の種類は「自筆証書遺言書」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。作成される方の多くは自筆証書遺言と公正証書遺言に分かれますが、それぞれの特徴は以下の通りです。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、その名前の通り遺言者が自分自身で遺言の内容・日付・氏名を自筆して押印する遺言書です。
遺言を残そうと思ったときに筆記用具があれば作成することが出来るため、他の方法に比べて費用も掛からず手続きも一番簡易です。また自分一人で作成できるため遺言内容を秘密にしておけるというメリットがある一方で、家庭裁判所の検認が必要だったり、法的要件を満たしておらず用意した遺言書が無効になる場合もあります。その他にも偽造や改ざんなどの心配やそもそも発見されないといったデメリットもあります。このようなリスクが多いことから2020年7月から自筆証書遺言保管制度が開始されましたされました。
自筆証書遺言保管制度とは、自筆証書遺言の保管を自身ではなく、法務局で手数料を支払い保管してもらう制度です。これにより検認が不要になり、紛失のリスクは解消されます。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場にて証人立会のもと遺言書の内容を口頭で伝えて公証人に作成してもらう遺言書です。
作成された遺言書は必要になるまで公証役場で保管されることになります。
また作成、保管共に専門家である公証人が行うので遺言書の効力を争われる危険性が低く、法的にも最も安全・確実で後日のトラブルを防止するために最適な作成方法です。家庭裁判所での検認も不要で、自筆出来ない場合にも作成することが出来きます。内容について証人立会いが必要なことから、内容を自分だけの秘密に出来ないというデメリットがあります。しかし公証人には守秘義務があるため遺言の内容を漏らすようなことはありません。
秘密証書遺言
秘密証書遺言はとは、遺言者が記載した書面に自署と押印したうえで封印し、公証人役場に持ち込んで公証人及び証人立会いのもと提出します。自分の遺言書であること、氏名及び住所を口頭で延べ公証人が署名押印をすることにより作成する方法です。この手続きを行うことで、この遺言書が間違いなく本人のものであることを明確にできて内容も秘密にすることが出来ます。しかし、保管は自身で行うため自筆証書遺言と同じく紛失や・隠匿改ざんの危険性と法的要件を満たしておらず無効になる可能性もあります。
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
---|---|---|---|
おすすめ | |||
作成者 | 公証人が作成 | 本人 | 本人(代筆も可能) |
保管者 | 公証人役場 | 本人または法務局 | 本人 |
証人 | 2人以上 | 不要 | 2人以上 |
メリット | 文字が書けない場合でも作成できる 身体的理由で声が出せない場合も作成できる 紛失や盗難の可能性が無い 内容不備などで無効にならない 家庭裁判所での検認が不要 | いつでも簡単に作成できる 遺言書の存在と内容を秘密にできる 書き直しが自由にできる | 内容が秘密に出来る 代筆やパソコンでの作成も可能 |
デメリット | 内容を秘密にできない 手続きが煩雑 費用がかかる | 内容に不備があると無効になる 紛失や偽造の恐れがある 無理やり書かされる可能性がある | 内容に不備があると無効になる 廃棄・隠匿・改ざんの可能性がある 費用がかかる |
検認 | 不要 | 必要 | 必要 |
自筆証書遺言の作り方と必要書類
作成の流れ
まずは自分の財産について種類と金額を把握しましょう。
遺言書には財産特定のために正確な情報を記載しておく必要があります。
例えば、預貯金なら銀行名・支店名・口座番号、不動産なら登記簿謄本などをもとに財産を特定します。
財産を特定できる資料を準備しましょう。
相続させたい財産が明確になれば次にその財産を 誰に(どの相続人、または受遺者に)、何を(その財産を)、どのくらい(どんな割合で)相続させるのかを決めていきます。また遺言作成時にあわせて遺言執行者を決めておくとよいでしょう。遺言執行者とは遺言の内容を実現させるために必要な手続きをする人のことです。
自筆証書遺言の場合は全て自分の手書きで記入する必要があります。
作成時のポイントがいくつかあるので注意しましょう。
書き終わった遺言書は改ざん防止のため封筒に入れて封印しておくことをお勧めします。
また封筒には誰が書いたかわかるように表には「遺言書」裏には「作成日付」と「名前」を書いておきましょう。
自筆証書遺言を書くときのポイント
- 遺言の内容・作成日付・氏名を全て手書きで書くこと
- 署名と押印を忘れずにすること
- 日付は年月日を書くこと
- 誰が見てもわかる明瞭な事態で書くこと
- 氏名は略称ではなく戸籍に記載されている正確な漢字を使うこと
- 財産は資料に基づき正確に書く
- シャチハタは使わず実印を使うこと
- 遺言書が複数枚になるときはホチキスで綴じ割印をすること
- 消すことが出来ない油性のペンなどで 書くこと
なお、書き間違えてしまった場合は修正方法に厳格な決まりがあるため、誤った修正方法で訂正してしまうとその遺言書の効力が認められない可能性もあるため一から書き直すことをお勧めします。
公正証書遺言の作り方と必要書類
作成の流れ
まずは自分の財産について種類と金額を把握しましょう。
誰に(どの相続人、または受遺者に)、何を(その財産を)、どのくらい(どんな割合で)相続させるのかを決めておくと公証人との打ち合わせもスムーズに進められるでしょう。
内容が決まれば手続きに必要な書類を集めます。
最寄りの公証人役場を調べて、事前に担当してくれる公証人と打ち合わせをして、遺言書を作ってもらうために準備した資料を渡します。
公証役場で公証人立会いのもと、口頭で読み上げたものが遺言内容に間違いないか確認し、遺言書原本に遺言者本人、証人、公証人がそれぞれ署名押印をします。
遺言書の正本と謄本の交付を受け、公証人手数料を支払えば完了です。
ここで注意したいのは、公証人は相続対策や相続トラブル防止の提案やアドバイスはしてくないということです。
相続対策など内容についてアドバイスが欲しい方は専門家に相談しましょう。
公正証書遺言に必要な書類
- 遺言者本人の戸籍謄本
- 遺言者本人の実印
- 遺言者本人の印鑑証明書
- 遺言者本人と相続人の関係がわかる戸籍謄本(相続人に相続させる場合)
- 受遺者の住民票(相続資格のない人へ遺贈する場合)
- 登記事項証明書
- 固定資産税評価証明書(または納税通知書の課税明細書)
- 銀行名や口座番号がわかる資料
- 証人2名の氏名、住所、生年月日、職業を書いたメモ *当日は証人の押印と本人確認資料を持参
*戸籍謄本と印鑑証明書、住民票は発行から3か月以内のものに限ります。
証人について
公正証書遺言の作成には証人2名を準備する必要があります。
方法は次の3つです。
- 自分で承認になってくれる人を探す
- 専門家に依頼する
- 公証人役場で証人を準備してもらう
推定相続人や受遺者、配偶者、直系血族、未成年
公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人は証人にはなれません。
遺言書の撤回・訂正はできるの?
遺言書の撤回や訂正は基本的に可能です。遺言自体は本人の意思を保護する制度なので、いつでも自由に変更することができます。その時に最善と思って作成したとしても状況や事情が変わったり、心境の変化が起こる可能性も十分あり得ます。また内容を変更したい場合や、財産の内容が大きく変わった場合は書き直したほうが良いでしょう。
まとめ
さて、ここまで遺言書の種類を説明してきましたがいかがでしょうか。遺言書と一口に言っても、その内容には十人十色で状況も様々なものがありますよね。相続内容が簡単な場合は自筆証書遺言でも問題ないかもしれませんが、それでも不備があり無効になる危険性があるため、公正証書遺言を書くことお勧めします。複雑な相続内容でも、法律の知識を持った公証人という専門家が関わるため法的な見解で整理された遺言書になり安心です。
そのため、記載したい内容が無効にならないか不安な方は費用は掛かりますが安心で確実な公正証書遺言をお勧めします。
また、当事務所では遺言書作成や相続に関しての相談を承っておりますので、相続に関してのご不安やご相談があればお気軽にお問合せください。