遺言書は自身の財産について「誰に何をいくら相続させるか」の意思を表し、書面にしたものです。
自身の想い実現するためには、遺言を書くことが唯一の手段であることはご承知の通りです。
このコラムでは、最も簡便な方法と言われる自筆証書遺言作成方法をシリーズ化してご紹介していきます。この自筆証書遺言はお手軽で、とても有益な手段ですが、一方で厳格な要件を要求されます。もし要件に合致しない場合は無効とされる場合もありますので、作成方法を十分に理解した上で作成に取り掛かることが重要です。
第一回目の本コラムでは、自筆証書遺言の基本パターンをご紹介します。
基本的な遺言書の書き方
ご自身で遺言書を用意する自筆証書遺言の場合、必ず自分自身の手で書く必要があります。パソコンなどで作成することは認められていないため、以下の4つのポイントに注意して書いていきましょう。
- 誰に(どの相続人、または受遺者に)、何を(その財産を)、いくら(どんな割合で)相続させるのか具体的に記載すること
- 遺言書を書いた年月日を正確に記載すること
- 遺言書に必ず署名と捺印をすること
- 誰が見てもわかるような明瞭な字で全文を自分の手で書くこと
これらが欠けてしまうと遺言書が無効になりかねない為、注意が必要です。
まずは財産目録を用意した上で、【誰に】の部分は続柄と氏名の他に、生年月日を書き、【何を】の部分は財産特定のために正確な情報を書きます。
また改ざんを防ぐためにも書き上げた遺言書は封筒に入れて封印しておくことをおすすめします。
遺言書に使用する印鑑は信憑性を高めるため、認印(シャチハタ)ではなく実印を使うことが望ましいです。
通常、自筆証書遺言の場合は開封する前に家庭裁判所で遺言書の内容を確認し保存する検認手続きが必要です。ただし検認を受けたから有効な遺言書だという意味ではありません。
「検認」とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして,遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
裁判所HPより引用 遺言書の検認 1. 概要
2020年7月10日から法務局に預ける自筆証書遺言保管制度が始まりました。この制度を利用すれば検認は不要となります。紛失や改ざんへの不安がなくなることもメリットですが、その一方で公正証書遺言とは違い、内容については第三者のチェックが入らないので、意図せず無効な内容になってしまうことがデメリットです。
【遺言書を書くときに用意する物】
- 用紙(法務局で保管する場合は、A4サイズの装飾のない紙)
- 印鑑(実印が望ましい)
- ボールペン(油性の消えないもの)
基本的な遺言書の見本
遺言書
遺言者○○太郎は、次のとおり遺言する。
1.遺言者は、その有する次の財産を遺言者の妻○○花子(昭和〇年〇月〇日)に相続させる。*①
(1)土地 *②
所在 大阪付大阪市旭区○丁目
地番 ○○番○○
地目 宅地
地積 ○○〇.○○㎡
(2)建物
所在 大阪付大阪市旭区○丁目○○番○○
家屋番号 〇○○番○
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建て
床面積 1階○〇.○○㎡
2階○〇.○○㎡
2.遺言者は、その有する次の財産を長男○○一郎(昭和〇年〇月〇日)に相続させる。
(1)預貯金
○○銀行 △△支店 普通預金123456
○○信用金庫 ××支店 普通預金123435
3.遺言者は、その有する次の財産を長女○○さくら(昭和〇年〇月〇日)に相続させる。
(1)○○株式会社 ○○株
4.遺言者は本遺言の遺言執行者として長男○○を指定する。 *③
令和5年3月16日*④
大阪府大阪市旭区○○丁目○○番地
遺言者 ○○太郎 印 *⑤
*①相続人に財産を遺す場合は「渡す」「贈る」「遺す」ではなく、「相続させる」という文言を使う。
*②預貯金や不動産、その他マイナスの財産も含めリストアップした財産目録を基に記入すること、財産目録に限りパソコンで書くことも可能です。
*③遺言執行者の選任は自由ですが、遺言書に書かれた相続手続きを取りまとめて行うことができるため、指定することが多いです。遺言執行者は家族以外の第三者でも指定することができます。
*④遺言を書いた日付は正確に書く。(4月吉日などはNG)
*⑤署名を忘れずに書く。捺印は実印が良いでしょう。
遺言書の訂正は可能
相続分や相続人についての変更内容が重大な場合は、訂正ではなく新しく書き直しをしたほうが良いでしょう。
自筆証書遺言の場合、簡単に加除訂正ができるものの、法律に定められた方法に則って正しく行わないと、修正が無効になるおそれがあります。
しかし、誤字脱字など少しのミスで遺言書を書き直すほどでもない場合は以下の方法で訂正しましょう。
遺言書の内容について修正したいときは、まず訂正部分に二重線を引きます。
横書きの場合は二重線の上、縦書きの場合は二重線の左側に正しい文言を書き、変更箇所の近くに訂正印を押します。
修正箇所を黒く塗り潰したり、修正ペンや修正テープの使用は禁止です。
そして、修正した行(列)または遺言書の末尾に修正箇所の詳細を記載します。
【例】
「〇行目の○○(修正箇所)を△△(修正した内容)に訂正した」
「〇行目に△△(修正した内容)の〇文字(追加した文字数)加入した」 など
訂正印は、遺言者本人による変更であると証明するため、遺言書で使用したものと同じ印鑑でなくてはなりません。書き方を間違えた場合の訂正方法は正しく行いましょう。
訂正箇所が複数ある場合や、正しく訂正できているか不安な方は思い切って作り直してしまったほうがいいでしょう。
遺言書の効力と範囲
遺言書に法的効力ある事項は「相続に関すること」「財産の処分に関すること」「身分に関すること」の3つです。
- 相続に関すること(法廷相続分と異なる分配、相続人の排除 など)
- 財産処分に関すること(遺贈 など)
- 身分に関すること(子供の認知 など)
たとえ「誰か一人に全財産を相続させる」ことを記載したとしても遺留分の権利は消えないため、記載内容には注意が必要です。
遺留分とは、法定相続人に保障された最低限の遺産をもらえる権利のことを言います。
遺留分侵害に当たる場合は遺留分侵害額請求権を行使することで最低限の相続財産を受け取ることができます。
しかし、誰でも遺留分が認められるわけではありません。遺留分が認められる相続人の範囲は配偶者とその子供、孫などの直系卑属、両親・祖父母などの直系尊属です。
被相続人の兄弟姉妹や、その甥姪に当たる人には遺留分は認められません。
遺言書を書くことをおすすめするケース
- おひとりさまで法定相続人がいない
- 子供がいない夫婦
- 内縁者またはパートナーがいる
- 相続させたくない人や財産がある
- 相続人に行方不明者や判断能力に欠ける人がいる
- 家族以外の特定の人に財産を渡したい
- 相続人同士の仲が良くない
相続に関わるトラブルを防ぐためにも、特に上記に当てはまる人は遺言書を作成しておくことをおすすめします。