介護費用の負担を軽減できる?世帯分離のメリット・デメリット

目次

介護費用軽減のための世帯分離とは


介護保険サービスの自己負担額は世帯の所得によって決まりますので、今まで同一世帯としていた介護を必要とする世帯と、その下の世代の生計を分けることで、世帯の所得が下がり、自己負担額もそれに応じて下がります。 

このように別々の生計に分けることを一般的に「世帯分離」と言います。

例えば、世帯分離をして要介護3の介護サービス費の自己負担割合が2割から1割に下がった場合は、月額27,048円の自己負担上限額になり、年間にすると32万円の負担軽減となります。つまり、世帯分離をして世帯所得を下げることが出来れば、介護費用の負担が軽減される可能性があるということです。

一見すると世帯分離をすることで介護費用を抑えるというメリットだけに見えますが、一方で扶養控除がなくなってしまうなどのデメリットもあります。
ここからは世帯分離のメリットとデメリット、手続きの際の注意点も含めてご紹介していきますので、順にみていきましょう。

世帯分離のメリット

世帯分離をすることで得られるメリットはいくつかあります。ここからはどういうメリットがあるのか具体的に見ていきましょう。

世帯分離のメリット
  • 介護保険の「自己負担割合」が軽減される
  • 介護保険の「利用者負担段階」を下げて自己負担を軽減
  • 介護保険の「高額介護サービス費」で自己負担を軽減
  • 介護保険料の負担を軽減
  • 医療保険の「高額療養費」「高額介護合算療養費」の支給額が増える
  • 後期高齢者医療制度の保険料が下がる
  • 住民税が非課税になる可能性がある

1.介護保険の「自己負担割合」が軽減される

介護保険サービスの費用は一部介護保険で賄っており、利用者が支払う自己負担額はそのうちの1~3割です。
この自己負担の割合は所得によって変動するため、世帯分離をして所得が減ることで、自己負担する割合が下がり「介護サービス費」を軽減できる可能性があります。

介護保険サービスは、利用者の介護認定度合によって毎月利用できる上限基準額が決まっており、自己負担の割合が変わることで月々の自己負担額も変わります。

第1被保険者65歳以上の方の利用者の世帯所得金額(年金)と自己負担割合は次のとおりです。
世帯分離をすることで、負担割合を下げることが出来そうか確認してみましょう。

合計所得金額年金収入(単身世帯)年金収入(2人以上世帯)自己負担割合
220万円以上340万円以上463万円以上3割
160万円以上280万円以上340万円未満346万円以上463万円未満2割
160万円未満280万円未満346万円未満1割
負担割合の判定基準
 支給基準限度額(円/月)自己負担額(1割)自己負担額(2割)自己負担額(3割)
要支援150,320円5,032円10,064円15,096円
要支援2105,310円10,531円21,062円31,593円
要介護1167,650円16,765円33,530円50,295円
要介護2197,050円19,705円39,410円59,115円
要介護3270,480円27,048円54,096円81,144円
要介護4309,380円30,938円61,876円92,814円
要介護5362,170円36,217円72,434円108,651円
介護サービス費負担割合

2.介護保険の「利用者負担段階」を下げて自己負担を軽減

住民税非課税世帯になった場合は、利用者負担段階を下げて介護保険の「負担限度額認定」を受けることにより、食費や居住費の負担を軽減できる可能性があります。

介護保険施設を利用している場合、所得に応じて設定される利用者負担段階というものがあります。この段階に基づいて利用者が月額に負担する料金が変わる制度です。
世帯分離をすることで、第1段階~第3段階に当てはまる場合は自己負担額を軽減できる可能性があります。

利用者負担段階

第1段階

世帯全員が市町村民税非課税で、老齢福祉年金の受給者など

第2段階

世帯全員が市町村民税非課税で、本人の合計所得金額と課税年金収入額が80万円以下

第3段階

世帯全員が市町村民税非課税で、第2段階以外の方

第4段階

市区町村民税課税世帯、基準費用額となる

3.介護保険の「高額介護サービス費」で自己負担を軽減

高額介護サービス費は、公的介護保険の利用による自己負担の合計金額が、1か月あたりの上限額を超えた場合に超えた金額費用の一部が還付される制度です。

高額介護サービス費の月々の上限金額も世帯所得によって決まるため、世帯分離をして介護サービス費の自己負担上限額が下がれば支給される高額介護サービス費が増えるので、介護費用の自己負担が軽減されます。

高額介護サービス費の利用者負担段階と利用者負担上額(月額)
利用者負担段階区分負担上限額(月額)
課税所得690万円(年収約1,160万円)以上140,100円(世帯)※1
課税所得380万円(年収約770万円)~課税所得690万円(年収約1,160万円)未満93,000円(世帯)
市町村民税課税~課税所得380万円(年収約770万円)未満44,400円(世帯)
市町村民税非課税世帯 24,600円(世帯)
・前年の公的年金等収入額+その他の合計所得金額(※3)の合計が80万円以下
・老齢福祉年金受給者
24,600円(世帯)
15,000円(個人)※2
生活保護を受給15,000円(個人)
高額介護(介護予防)サービス費(相当事業費)の利用者負担段階と利用者負担上限額(月額)
  1. 介護保険サービスを利用した全世帯の人の上限金額
  2. 介護保険サービスを利用した本人の負担の上限金額
  3. 「その他の合計所得金額」とは、合計所得金額から公的年金等に係る雑所得(公的年金等収入額から公的年金等控除額を差し引いた金額)を差し引いた金額です。
還付対象にならない介護サービス
  • 特定福祉用具の購入や住宅改修にかかる自己負担額
  • 介護施設での居住費および食費
  • 理美容代などの日常生活にかかる実費
  • 生活援助型配食サービスにかかる自己負担額

4.介護保険料の負担を軽減できる

介護保険料は本人と世帯の課税状況合計所得金額に応じて段階が設定されており、支払う金額が変わります。
そのため世帯分離をすることで所得が下がり段階が変われば、世帯所得によって決定する介護保険料を軽減できる可能性があります。

この保険料の金額はお住いの地域によって異なり、3年ごとに見直しをされるため、最新情報は各市区町村のホームページで確認することをおすすめします。

65歳以上(第1号被保険者)の保険料

出典:大阪市介護保険料について

5.医療保険の「高額療養費」「高額介護合算療養費」の支給額が増える

世帯分離をすることによって世帯所得が下がれば、公的医療保険の「高額医療養費制度」の自己負担金額の上限が下がって医療費の負担が軽減される可能性があります。

高額医療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払った金額が設定された月額上限を超えた場合に、超えた金額を支給する制度のことです。この自己負担上限金額は年齢や所得よって異なり、本人所得と世帯所得によって設定されます。

また高額介護合算療養費制度で、介護費用と医療費の自己負担上限が下がることでも医療費の負担が軽減される可能性があります。

高額介護合算療養費制度は、世帯に介護保険適用者がいる場合に世帯で自己負担する介護保険と医療保険(後期高齢含む)の上限金額を設定し、その自己負担上限金額を超えた場合に、超えた金額を支給する制度です。

6.後期高齢者医療制度の保険料が下がる可能性がある

後期高齢医療制度は、75歳以上の高齢者の医療費を負担する医療制度です。基本的に後期高齢者は自己負担割合が1割で医療機関を利用できますが、自分自身も保険料を納付する必要があります。

そして後期高齢医療制度の保険料は、世帯所得に応じて支払う「所得割額」と被保険者が等しく払う「均等割額」を足した金額を支払います。この「均等割額」には軽減措置があり、世帯分離で所得が下がることで保険料が軽減できる可能性があります。

均等割額の軽減割合と基準
7割減額
【基礎控除額(43万円)+ 10万円 ×(給与所得者の数ー1)を超えないとき】
5割減額
【基礎控除額(43万円)+ 29万円 ×(被保険者数)+ 10万円(給与所得者の数ー1)を超えないとき】
2割減額
【基礎控除額(43万円)+ 53万5千円 ×(被保険者数)+ 10万円 ×(給与所得者の数ー1)を超えないとき】

7.住民税が非課税になる可能性がある

世帯の人数と年収で決定される住民税は世帯分離を行うことで住民税が非課税になる可能性があります。
住民税は均等割と所得割の2種類で構成されており、その税率や住民税が非課税世帯になる年収の目安は住んでいる自治体によって異なります。

そのためあくまで目安にはなりますが、単身の給与所得者であれば年収100万円が住民税が非課税世帯になる目安です。パートやアルバイトによる収入が100万円以下であれば住民税はかかりません。
また65歳以上の単身者で収入が年金のみの場合、年収155万円以下が目安となります。

大阪市の場合、所得割が非課税になるのは、前年の総所得金額等の合計金額が次の算式で求めた額以下の人です。

(1)同一生計配偶者または扶養家族がいる場合
  35万円×(本人+同一生計配偶者+扶養家族)の人数 + 32万円 + 10万円
(2)同一生計配偶者または扶養家族がいない場合
  35万円 + 10万円(給与所得者の場合、年収100万円以下である方が該当します。)

世帯人数給与収入(年収)公的年金(収入) 65歳以上
1人(単身)100万円以下155万円以下
2人(扶養1人)156万円以下211万円以下
3人(扶養2人)205万円以下246万円以下
4人(扶養3人)255万円以下281万円以下
5人(扶養4人)305万円以下316万円以下
住民税が非課税になる世帯収入目安
住民税非課税世帯が受けられる優遇措置
  • 世帯収入が減ることでこ医療費の自己負担額が軽減する
  • 国民健康保険料、国民年金保険料の減免が受けられる
  • 介護保険料の「自己負担割合」「利用者負担割合」が下がる
  • 臨時給付金等の対象になる
  • NHKの放送受信料が無料になる
  • 保育料や大学授業料の無償化

世帯分離のデメリット

世帯分離を行うことで起きるデメリットは以下の通りです。

世帯分離のデメリット
  • 国民健康保険の納付額が増える可能性がある
  • 介護保険サービスの費用が世帯合算出来なくなる
  • 家族を扶養に入れられなくなる

1.国民健康保険の納付額が増える可能性がある

世帯分離をして単独世帯になった場合、国民健康保険料はそれぞれの世帯ごとに支払う必要が出てきます。
そのため2つの世帯を合算すると1人で支払っていた時と比べて納付額が高くなるケースがあります。介護保険料や介護サービス費の負担を軽減しても、国民健康保険料の納付額が増える可能性があることを覚えておきましょう。
世帯分離をする前には必ず世帯全体の保険料の納付総額を加味して検討しましょう。

2.介護保険サービスの費用が世帯合算出来なくなる

メリットとして紹介した高額介護サービス費制度にも注意が必要です。レアなケースにはなりますが、例えば同じ世帯に要介護の親と末期がん等の特定疾病(※1)を抱えた40歳以上の子がいる場合、介護保険サービス費用を合算することができ、その超過分は高額介護サービス費制度によって還付されていました。このような状況で世帯分離をしてしまうと、個別に負担上限額が設定されて、結果的に自己負担額の上限が上がってしまい、これまでより多くの介護費用を支払うことになります。

このように世帯分離をすることで、高額介護サービス費、高額療養費制度、高額介護合算療養費制度の介護保険サービスの費用の世帯合算が出来ないことで、自己負担上限額が上がってしまうケースがあるため、慎重に検討する必要があります。

要介護者が2名以上いる場合、要介護度が高い場合は、世帯の介護費+医療費の自己負担上限額が低く設定されているため世帯分離しない方が良いでしょう。

※1 特定疾病とは以下に当てはまる疾病です
  • がん(末期)
  • 関節リウマチ
  • 筋萎縮性側索硬化症
  • 後縦靱帯骨化症
  • 骨折を伴う骨粗鬆症
  • 初老期における認知症
  • 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
  • 脊髄小脳変性症
  • 脊柱管狭窄症 
  • 早老症
  • 多系統萎縮症
  • 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
  • 脳血管疾患
  • 閉塞性動脈硬化症 
  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

3.家族を扶養に入れられなくなる

世帯分離することで起きるデメリットの一つに、家族を扶養に入れられなくなる可能性があります。

所得税の扶養控除として入れられるのは年金収入(65歳以上)158万円以下給与所得であれば103万円以下です。
扶養する人は所得税で扶養控除を受けられ、扶養されている人は所得税と住民税の負担がなくなります。

従って、世帯分離で扶養から抜けると税制上の控除が受けられなくなるということになります。また世帯主である家族が会社から扶養手当(家族手当)をもらっている場合は手当の支給もなくなります。

会社の健康保険組合を利用できない

世帯分離をして扶養家族を抜けることで、世帯主の会社の健康保険組合の制度を利用することが出来なくなります。
健康保険組合の制度を利用してた場合は注意が必要です。

世帯分離の注意点

世帯分離の申請理由に注意

世帯分離の本来の目的は、生計を別にしている同居家族と分けることで、実態に則した形で生計管理しやすくするものです。
決して介護費用の軽減を目的としているわけではない為、窓口で申請する際には注意が必要です。
「介護サービス費を抑えるため」「生活費用の負担を軽くしたいから」という申請理由では、本来の目的と異なることから申請を断られる可能性があります
判断基準は自治体や窓口担当者によっても異なるため、あくまでも「生計を別にすることになったので世帯分離の申請を行いたい」ということを理由にしてください。

夫婦間での世帯分離は難しい

世帯分離は同居している夫婦でも、それぞれに十分な収入があれば可能です。しかし、法律上夫婦はお互いに協力しなければならない、協力扶助義務が発生することからほとんどの自治体では認められていません。

どうしても世帯分離したい場合は「生計が別であること」がわかるようにする必要があります。

世帯分離を検討したほうがいい人

ここまで世帯分離を行うことで起きるメリット・デメリットを紹介してきました。

年金所得者で、介護度の重い人や介護施設を利用している人にとっては世帯分離をするメリットは大きいので、検討したほうが費用を抑えられる可能性が高いでしょう。

しかし、生計を主にする者に平均的な所得がある場合は世帯分離することで、扶養控除等がなくなり、結果的に負担が増えてしまうこと、もしくは負担額が変わらないことがあるため不要だと考えます。

検討すべき人

  • 要介護者である親の所得が80万円以下で同居家族が高収入の場合
  • 介護施設サービスを利用している人
  • 要介護度の高い人

検討の必要がない人

  • 要介護者である親の収入が高い人
  • 生計を主にする者が平均的な所得があり、その扶養家族に入っている場合

判断に迷う場合は専門窓口へ相談しましょう

介護保険料や介護サービス費の自己負担額は「世帯の所得」によって決まるため、世帯分離をして世帯所得が下がれば、負担割合や上限金額が下がり、介護費用を抑えることが出来るでしょう。
但し、世帯分離を行うことで国民健康保険料の支払いが発生したり、扶養控除がなくなってしまうことも忘れてはいけません。一部の費用負担が減っても、全体としてみたら増えてしまうこともあります。

世帯分離をしてどの程度介護費用が抑えられるかは家族構成や世帯所得、利用者の介護状況によっても異なるため、世帯分離をした方が良いかについてはデメリットを把握し、総合的にみてメリットが上回るのかを慎重に検討する必要があります。また介護保険にまつわる制度や区分は改定されやすいため最新情報を確認することをおすすめします。

まずは身近な地域包括支援センター(高齢者相談窓口)、ケアマネージャー、社会福祉士などに相談してみましょう。

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