認知症に備える任意後見契約の書式と手続の流れ及び費用について

目次

任意後見人と任意後見契約について

任意後見契約について端的に説明すると、認知がすすんで判断能力が低下した後に本人ではできない法律行為を代理で行う支援サポートをどのような内容どこまで行うかということを公正証書契約することです。また委任された内容を実行し、法律的にサポートする人を任意後見人と言います。
法定後見と違い任意後見人は自分の意思で選ぶことが出来るため、信頼のおける身近な人に将来を任せることが出来るので安心して生活を送ることが出来ます。

また認知が進んだ後に起こるであろう事態も想定しながら内容を作成していくことで、今後自身がどのような生活を望んでいるのを明確にすることができ、準備や対策をとることでより身軽に豊かな人生を送ることが出来るでしょう。

本記事では任意後見契約の締結から申立ての方法と具体的な契約内容について解説していきます。

制度を利用した任意後見契約と申立てまでの流れ

STEP
任意後見人(認知が進んだ場合に自分を支援してくれる人)を決める

まず初めに誰に自分の後見人になってもらうか決めましょう。
将来任意後見人となってくれる人を任意後見受任者と言います。

STEP
受任者と任意後見契約の内容を決める

依頼する任意後見受任者と内容について話し合いましょう。

STEP
任意後見契約の締結と公正証書の作成

契約内容について話がまとまれば契約内容について公正証書を作成します。
作成した公正証書は公証人に法務局に登記の依頼を行います。

STEP
本人の判断能力が低下または失ったら任意後見監督人選任の申立てを行う

本人の判断能力がなくなったら、受任者が家庭裁判所へ後見監督人の選任の申立てを行い、任意後見監督人選任の審判で監督人を決めてもらいます。

STEP
任意後見監督人が選任されたら契約に基づき業務を行う

任意後見監督人を選任されたら、任意後見契約の開始となります。任意後見人として財産目録の作成や各機関への届出等、契約に基づいて様々な業務を行うことになります。

また、この時点から任意後見人や後見監督人に毎月の報酬が発生します。

以上の流れで申立てまで進めていきます。
次章からはステップ1からステップ4までの順を追って詳しく解説していきたいと思います。

任意後見人(認知が進んだ場合に自分を支援してくれる人)を決める

任意後見人を決める際の注意点

まず初めに誰に自分の後見人になってもらうか決めましょう。
将来任意後見人となってくれる人を任意後見受任者と言います。

任意後見人になるために特別な資格は必要ありません。欠格事由に該当していなければ本人が自由に決めることができ、成人であれば 誰でもなれます。自身の判断能力が無くなってからの財産管理や身上監護を行う人を決めるため、選定は信頼のおける家族や知人、または士業の専門家に依頼したほうが安心でしょう。
ただ同世代の友人だと、後見のの目的を果たすことが年齢的、体力的な部分で困難になる可能性がありますので、本人より一世代下の方に依頼すると良いです。また信頼できない方や浪費癖のある方は不適格です。
なお、以下のような人は法律上、欠格事由に該当し後見人としては不適格とされています。

後見人になれない人

  • 未成年者
  • 破産者
  • 現住所がわからない人(行方不明者)
  • 被支援者に対して訴訟経験がある人とその配偶者と直系血族
  • 家庭裁判所によって法定代理人を解任されたことがある人
  • 不正行為や不正跡など任務に適さない事由がある人

自分が認知症になった後で本当に契約したとおりに財産の管理をしてもらえるのか不安になる方もいると思います。
しかし、任意後見人には後見監督人と呼ばれる監督者が必ずつけられます。後見監督人とは言葉のとおり後見人が行う業務を監督する人のことを言い、家庭裁判所で選任されます。後見人が財産の管理などを正しく行っているかを監督し、後見事務の報告を受けたりし、後見人が不正をした場合は解任を請求できます。ですので安心して後見人に任せることが出来ます。

受任者と任意後見契約の内容を決める

任意後見契約の内容について

依頼する任意後見受任者が決まったら次に支援してほしい内容について決めていきます。
判断能力が低下した時に「何」「どのように」支援してもらいたいのか明確にしていく必要がありますので、自分の希望を整理しておきましょう。

任意後見人に委任できること

  1. 財産管理に関する法律行為
  2. 身上監護(生活・療養看護)に関する行為
  3. 任意後見契約で定めた代理権の範囲の行為

後見人の職務は、本人の財産管理や契約など法律行為に関するものに限られています。ですので食事の世話や実際の介護といった事実行為はできません。あくまで法律的な支援者ということになります。

委任できる内容は具体的には以下の内容が当てはまります。

  • 預貯金の管理
  • 年金や恩給等の受領
  • 公共料金うあ税金の支払い
  • 不動産契約や売却手続き
  • 遺産分割協議の代理 
  • 介護施設への入居や介護サービス契約や手続き
  • 医療契約や支払い手続き など

契約自由の原則に従い、当事者双方の合意により法律の趣旨に反しない限り自由にその内容を決めることが出来ます。
ただし、違法性のある事柄については無効です。

任意後見契約では委任できないこと

  • 財産の運用 (相続税対策のための生前贈与・不動産活用)
  • 医療行為の同意(手術や臓器提供)
  • 保証人になること
  • 死後の事務
  • ペットの世話 など

任意後見契約書に記載する項目

任意後見契約書に最低限記載すべき項目です。

  • 契約の開始時期
  • 委任契約の範囲
  • 報酬について
  • 事務経費等の費用について
  • 証書類の保管
  • 契約の終了
  • 代理権目録

この代理権目録に記載されていない行為については、必要であっても代理することはできません。
ですので、任意後見契約を結ぶ際には代理権目録への記載漏れがないか注意が必要です。

また、契約書案の作成で内容が決まらない場合や不明点がある時は、専門家への相談をお勧めします。

任意後見契約の代理権目録の具体例

任意後見契約でとても重要になる代理権目録ですが、一般的に利用される雛形は2種類あります。目録の必要項目にチェックを入れて使用する様式のチェック方式と箇条書きによる包括的な記載方法の様式です。チェック方式だと細かすぎるということから実際には包括的に記載する様式を使用することが多いのですが、その反面自身では気付いていなかった項目もきちんと確認できるので、漏れなく内容を決定することができます。以下に2種類の代理権目録のテンプレートを用意しました。実際にご自身で契約内容を決める時に具体的なイメージを持つためにご利用ください。

代理権目録 附録第1号様式(チェック方式)

代理権目録

財産の管理・保存・変更・処分に関する事項

(1)□ 甲に帰属する別紙「財産目録」記載の財産及び本契約の締結後に甲に帰属する財産(預貯金〈B1・B2〉を除く)並びにその果実の管理保存
(2)□ 上記財産(増加財産含む)及びその果実の処分・変更売
   □賃貸借契約の締結・変更
   □担保権の設定契約の締結・変更・解除
   □その他(別紙「財産の管理・保存・処分目録」記載のとおり)

代理権目録 附録第2号様式(包括的な記載方式)

代理権目録(記載例)

1 甲に帰属するすべての財産の管理・保存・変更・処分に関する事項
2 金融機関、証券会社及び郵便局とのすべての取引に関する事項
3 定期的な収入の受領及び支出を要する費用の支払い及びこれに関する諸手続き
4 生活費の送金、生活に必要な物品の購入等、日常生活に関する取引(契約の変更、解除)管理に関する事項
5 保険契約の締結・変更・解除ならびに保険金の受領及びこれらに関連する事項
6 不動産の処分ならびに補修・改良・管理に関する事項
7 不動産の賃貸契約の締結・変更・更新・解除に関する事項
8 介護契約その他の福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契約に関する締結・変更・解除及び費用の支払い等に関する事項
9 要介護認定の申請及び認定に関する承認又は異議申立てならびに福祉関係の措置(施設入所措置を含む)申請及び決定に 対する異議申立て
10 医療契約ならびに入院に関する契約の締結・変更・解除及び費用の支払い
11 登記済権利証、印鑑、印鑑登録カード、住民基本台帳カード、個人番号カード、預貯金通帳、年金関係書類、各種キャッシュカード、有価証券・預かり証、土地・建物賃貸借契約書等の重要な契約書類、その他重要書類の保管及び各事項の事務処理に必要な範囲内の使用に関する事項
12 登記及び供託の申請手続き、住民票・戸籍抄本その他行政機関の発行する証明書の請求及び受領に関する事項
13 遺産分割協議、相続放棄、限定承認に関する事項
14 贈与もしくは遺贈(負担付の贈与もしくは遺贈を含む)受諾または拒絶
15 裁判外の和解・示談ならびに仲裁契約
16 行政機関等に対するすべての申請・届出ならびに不服申し立て
17 訴訟行為(民事訴訟法第55条第2項の特別授権を含む)に関する事項
18 以上の各事務に関する復代理人の選任・事務代行者の指定
19 以上の各事項に関連する一切の事項

任意後見契約の締結と公正証書の作成

契約内容について話がまとまれば、内容をまとめた原案を公証人役場に持ち込み公正証書を作成する必要があります。
公証役場で原案と必要な書類を提出したら、それをもとに公証人が作成した任意後見契約の草案を確認するなどの打ち合わせを行います。公正証書の作成日時を予約し、本人と任意後見受任者が公証人の面前で契約内容を確認し、署名押印をしていきます。
基本的には最寄りの公証人役場へ本人と受任者が出向いて手続きを行いますが、体力的な問題で公証人役場まで行くことが出来ない場合は病院や自宅まで来てもらうことも可能です。その場合は公証人の出張費用が別途かかります。
作成した公正証書は公証人に法務局に後見登記の依頼を行います。

公正証書とは、法務省に属する公証役場で作られる高い証明力のある公文書です。

必要な書類

  • 任意後見契約の原案
  • 戸籍謄本
  • 住民票
  • 本人の実印
  • 本人の印鑑証明書
  • 受任者の実印
  • 受任者の印鑑証明書 

*各書類は発行日から3か月以内のものをご用意ください。

公正証書作成にかかる費用

  • 公正役場の手数料 11,000円
  • 登記嘱託手数料 1,400円
  • 収入印紙代 2,600円
  • 公証人出張費用 *必要な場合

公正証書にて任意後見契約が締結されると、公証人が法務局に登記依頼を行います。
法務局に登記されることで後見契約の内容を公的に証明することが出来ます。

本人の判断能力が低下または失ったら任意後見監督人選任の申立てを行う

任意後見監督人選任の申立て

本人の判断能力がなくなったら、管轄する家庭裁判所へ後見監督人の選任の申立てを行い、任意後見監督人選任の審判で後見監督人を決めてもらいます。家庭裁判所への申立てができる人は本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者です。

申立て後は家庭裁判所の許可を得なければ申立てを取り下げることはできません

申立て書類の準備

  • 任意後見監督人選任申立書
  • 本人の事情説明書
  • 本人の戸籍謄本・住民票(*個人番号マイナンバーの記載のないもの)
  • 診断書
  • 親族関係図
  • 財産目録
  • 収支状況報告書
  • 任意後見受任者への事情説明書
  • 任意後見契約の公正証書の写し

申立てにかかる費用

申立手数料と登記手数料の収入印紙

法定後見申立て費用 800円
登記手数料 1400円

伝達・送付費用

切手代(予納郵券)3,000~5,000円
裁判所が申立人に対して審判書などを郵送したりするために使用する費用です。申立て費用と併せて納めます。

その他・各種証明書の発行手数料

登記されていないことの証明書(成年後見の申し立て以前に制度を利用していないことの証明)
残高証明書 
不動産登記事項全部証明書
固定資産税評価証明書 など

申立てに実費としてかかる費用は諸経費を考えおおよそ1万円くらいです。
任意後見制度監督人選任の申立てを専門家に依頼する場合は報酬として別途10万円前後の費用がかかることになります。

まとめ

任意後見契約は本人の意思を最大限尊重することができる優れた制度と言われています。
本人の意思が示される任意後見人に与える権限の内容(何を)と範囲(どこまで)を明確にしていきます。

そして任意後見契約の最も重要なポイントは、その内容が任意後見人への授権の根拠となる代理権目録にきちんと記載しているかどうかということです。この目録に記載していない行為についてはどんなに必要であっても代理することはできません。

認知症になってしまってからでは任意後見契約はできません。任意後見の利用を検討されている方は、将来の自分のためにも判断能力が十分な今のうちにじっくりと考えてみてください。

またおひとり様で頼る人が近くにおらず将来が不安という方や、将来自分自身が安心して過ごせるように任意後見契約を結んでおきたいけれど契約内容や相続のアドバイスが欲しいとお考えの方は、お早めに専門家に相談しましょう。

JPコネクト行政書士事務所では、認知症を発症した場合に備えて任意後見契約関わる各種手続きを手配することが可能です。
本記事を読んで任意後見契約について詳しく知りたい方はお気軽にご相談ください。

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