認知症の家族を持つ人が遺言書を書くべき理由

現在の日本では高齢化とともに認知症患者の割合は増加傾向にあり、2025年には65歳以上の5.4人に1人が認知症になると予測され、認知症患者を持つ家族も増えていきます。相続手続きにおいては認知症患者が相続人に含まれていた場合、手続きがスムーズにいかないことも多く、残された家族が苦労することになってしまいます。そこで本記事では認知症の相続人がいた場合にどのような問題が発生するのか、その対策方法として有効な遺言書の書き方について解説します。

目次

相続手続における認知症の問題点

認知症の相続人がいたら遺産分割協議が出来ない

相続が発生したときは、相続人同士で被相続人の財産を誰がどのくらいの割合で相続するかを話合って決定する遺産分割協議を行うことになります。この遺産分割は法律行為にあたり相続人全員の合意が必要ですが、相続人の中に認知症患者がいると、その人本人の意思決定の判断能力が認められず、一切の法律行為が出来なくなります。その結果、遺産分割協議がまとまらず相続手続きが進められなくなります。

そもそも何のために遺産分割協議をするのか?

遺産分割協議は相続人間で自由な意思の下、各相続人に帰属する相続財産を決めるために行います。実際の遺産分割協議においては、相続税の対策としての視点と、不動産の売却や運用も視野に入れて協議を行います。例えば居住宅は配偶者が相続することで、相続税の軽減措置が受けられます。収益物件の管理は得意な相続人に任せるなど、相続人の合意のもとで総合的に判断し決定します。

遺産分割協議が出来ない場合の問題点

認知症の相続人がいて遺産分割協議が出来ないとなると様々な問題が出てきます。特に問題となるのが不動産の共有です。遺産分割協議を経ず、法定相続分で相続して不動産が共有状態になった場合は、何かする場合は共有者全員の合意が必要になります。例えば老朽化して修繕工事や建て替えが必要になっても合意が得られず何もできなくなります。さらに相続した不動産は自由に売却処分することも賃貸物件として貸し出すこともできないまま、最悪の場合は長期間空き家になるかもしれません。また空き家として放置すれば固定資産税の軽減措置も受けれず余計に負担が増すことになります。当然、認知症の相続人が亡くなるまでの間は維持コストは継続します。

さらに相続税の面では、優遇措置が受けられなくなり負担が増えてしまいます。例えば小規模宅地特例などの相続税軽減措置の申請には遺産分割協議書の提出を求められますが、提出できないためこの特例が受けられません。

このように遺産分割協議が出来ないことで、相続には大きな影響が出てきます。そのため遺産分割協議をすることは必須と言えるでしょう。しかし認知症の相続人は単独で遺産分割協議に参加することが出来ないので「後見人」という制度を利用することになります。

相続手続内での後見人の役割とその問題点

後見人は成年後見制度を利用することで付けることが出来ますが、誰でも後見人になれるわけではなく、裁判所に申し立てを行い選任された人が後見人となります。選任された後見人が認知症の相続人に代わって遺産分割協議に参加することで相続手続きを進めることができますが、先に述べた自由な遺産分割協議とは異なり、必ずしも相続人達の望むような結果になるとは限りません。なぜなら後見人にはその人の財産を守る義務があり、法定相続人分を下回るような遺産分割には合意することはないからです。それは法定相続後に売却しようとして後見人を付けた場合でも同じで、他の相続人の気持ちや利便性よりも本人の利益が守られることが優先されるため、本人にとって不利益になる場合は後見人が合意することはありません。従って後見人のいる遺産分割協議は、合意が得られれば法定相続分にとらわれず柔軟な分割が可能になる通常の遺産分割よりも自由度は低くなってしまいます。

後見人が選任されたら将来に渡って報酬を支払い続けることになる

後見人には月額報酬が発生します。そして一度後見人が選任されたらその相続人が存命の間は解任することはできず報酬を支払い続けることになります。支払う報酬費用は相続財産の金額によって異なりますが、後見人にはおよそ月額2~6万円、後見監督人には1~3万円程度の費用がかかります。後見監督人はその名の通り後見人が行う事務を監督する人です。できれば遺産分割のためだけに後見人を選任することは避けたいものですが、相続手続きを進めるためには他に選択肢がなく費用の負担は避けられません。

結論、様々な問題を解決するには遺言書を書くことが最善の策

このように認知症の相続人は相続手続きを自身で行うことはできず、遺産分割協議を進めるためには後見人が必須となります。後見人を付けずに法定相続した場合でも共有名義となれば様々な不都合や不利益が生じる可能性が高く、どちらにしても残された家族に負担をかけることになってしまいます。

相続開始してからでは出来ることに限りがあるため、可能であれば認知症の相続人がいるとわかった段階で遺言書を書いておくことが最も有効かつ最善の策と言えるでしょう。遺言書があれば遺言者が望む形で相続され、遺産分割協議をする必要も後見人を付ける必要もなくなります。

次項では認知症の相続人がいる場合にどのような遺言書を作成すると良いか、作成時の注意点をご紹介します。

認知症家族をもつ遺言者が遺言作成するときの注意点

遺言書は、亡くなった後に遺言者の意思(意志)を反映させることが出来る書面です。遺言書は法的効果を持つゆるぎないもので、その効力は相続人に認知症の人がいても変わることはありません。遺言書があれば遺言内容に沿って相続手続きを行うことになるため、相続人同士で遺産分割協議を行う必要がなく後見人も不要となります。あらかじめ財産の継承者を指定しておくことで共有状態を避けることもできるでしょう。(遺言書を書くことは、死後に自分の意思を反映させるだけでなく残された家族の負担を減らしその後の生活を守ることに繋がります。)

相続において絶大な効力をもつ遺言書ですが、法的に有効な遺言書を書く場合にはいくつか注意すべきポイントがあります。遺言書を作成するときは以下の点に注意しましょう。

遺言書の作成は「公正証書遺言」で作成しよう

遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類がありますが、法的効力の高い遺言書を作成するためには「公正証書遺言」で作成しましょう。公正証書遺言であれば家庭裁判所での遺言書の検認がなく、有効性が担保されます。なぜなら公正証書遺言は公証人と証人の立会いのもと作成するため、書類の不備が起こりにくく、作成時に遺言能力があったことも客観的に証明しやすいからです。また作成後の遺言書は公証役場で保管されるため紛失や改ざんの心配もありません。

②遺言執行者を指定しよう

遺言書に遺言執行者の指定がない場合、財産を受け取る相続人が手続きを行います。しかし認知症の相続人がいた場合、本人は相続手続きが出来ません。そのため遺言執行者を指定しておくことが大切です遺言執行者に指定された人は遺言書に書かれた内容を実現するために単独で相続手続きを進めることが出来ますそのため相続人の中に認知症の人がいても問題なく相続手続きを進められるでしょう。遺言執行者は未成年者または破産者に該当しなければ、誰でもなれるので、相続人の中から指名するか第三者へ依頼するかは、相続人同士の関係性や状況を考慮して指定するといいでしょう。

③遺留分に配慮しよう

遺言書には自分の財産を誰にどのくらい相続させるのか自由に指定することが出来ます。そのため複数の相続人のうち誰かひとりに全て相続させるといった遺言も作成することはできます。しかし相続人の中には遺留分という最低限受け取ることが出来る権利を持つ人がいます。認知症の相続人がいた場合に限らずこの遺留分を考慮しておかないと、遺言内容に不満をもつ相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があるので注意しましょう。遺留分の権利者は、被相続人の配偶者、子、父母、父母がいない場合は祖父母(直系尊属)です。兄弟姉妹には遺留分の権利はありません。

認知症の家族に配慮した遺言書を作成した場合のメリット

  • 法定相続分に限らず、遺言者の意思で自由な財産分割が可能
  • 公正証書遺言によって遺言書の有効性が担保される
  • 遺言執行者によってスムーズな相続手続きが可能になり、相続人の負担が軽くなる

注意点を踏まえて遺言書を作成すれば、相続開始時に遺言書の有効性について問われることもなく、認知症の相続人がいても遺言内容に沿ってスムーズに相続手続きを行うことが出来ます。特に遺言執行者の役割は重要です。遺言執行者が単独で相続手続を行うことで、認知症の相続人に限らず各々で動かなくて済むため、相続人の負担も軽減されます。

まとめ

自分の遺産は大した額ではないから遺言書を書くまでもない、残された家族で自由に分けてくれたらいいと考えていても、相続開始時に認知症の相続人がいた場合には、遺産分割協議が出来ず、後見制度を活用しなければ相続手続きを進めることが出来ません。たとえ後見制度を活用したとしても柔軟な遺産分割とはならず、相続人たちの求める結果となることは難しいでしょう。そうなれば望んでいた結果にはならず、残された家族に負担がのしかかります。このような事態を避けるためには遺言書を書くことが大切であるとご説明してきました。

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