任意後見制度を補完する見守り契約とは

見守り契約とは、任意後見制度を補完する一種の委任契約です。
任意後見制度は判断能力が低下した後に、初めて効果を持つものです。そのため本人の判断能力が低下し、申立てを行うまでの期間はこの制度ではサポートすることはできません。
本人の体力低下とともに健康状態の把握や支援してくれる人がそばにいれば心配はないかもしれませんが、そうでない場合は誰が判断能力の低下に気づき、申立てを行ってくれるのでしょうか。

そこで注目したいのが任意後見契約の開始までの空白の期間をケアする見守り契約(一般事務委任契約)です
本コラムではこの見守り契約とはどのようなものか、その必要性と委任内容について詳しく解説します。

目次

見守り契約(一般事務委任契約)とは

見守り契約とは、その名の通り任意後見契約の開始までの期間(判断能力が低下するまで)に本人の健康状態を見守り支援する契約形態です。
ただ見守るだけではなく、委任者とのコミュニケーションを重ね、定期的に面談を行うことで生活状況、健康状態、判断能力の状況を把握し、介護施設の入所や病院の入院の必要性などの把握を行うことで任意後見の開始時期を判断し、家庭裁判所への申立てを行うことになります。

見守り契約の必要がある人

  • おひとりさま・一人暮らしが長い
  • 身近に頼れる家族がいない
  • 家族には頼りたくない
  • 家族や友人に負担をかけたくない

少子高齢化の現代では、高齢者だけの世帯も増えています。一人暮らしをしている高齢者の方の中には自分に何かあったときに気付いてくれる人がいないことに不安を抱えている方もいるでしょう。身近に頼れる家族や知人がいない場合にも信頼できる第三者に定期的に連絡を取ってもらい健康状態を見守ってもらうことで、このような不安を解消でき、適切なタイミングで任意後見制度を利用することが出来ます。

見守り契約の委任範囲

見守り契約は法律で決められているような契約制度ではないため、契約内容については当事者間で自由に決めることが出来ます。そのため本人の生活状況や家族関係を考慮した上で、本人の希望を活かしたものにすることが出来ます。
見守り契約(一般事務委任契約)で委任できる範囲は概ね以下のとおりです。

委任できること

  1. 定期的な連絡と訪問
  2. 生活状況・健康状態の把握
  3. 日常生活に関する困りごと法律に関する相談
  4. 緊急連絡先の指定
  5. 各種契約に関する相談
  6. 証明書等の請求手続き 
  7. 貴重品の管理
  8. 財産管理に関すること

1.定期的な連絡と訪問

例えば「毎月1回電話連絡をし、2か月に1回の自宅訪問を行う」や「毎週月曜日に安否確認のメールをする」といった定期連絡の頻度や自宅訪問の回数も、本人の希望と相談して決めることが出来ます。

2.生活状況・健康状態の把握

定期連絡や訪問時に委任者の生活状況の変化や健康状態について、お話しながら状況を把握し、適切な医療サービスが受けられるように備えます。また親族、家族への状況報告やケアマネージャーや介護従事者との連携し、健康状態や生活状況の情報共有を行えます。

3.日常生活に関する困りごとの法律に関する相談

例えば、怪我や病気など身体的不自由から銀行での入出金をお願いしたいという相談も委任状をいただき代理したり、悪質な訪問販売や電話勧誘など日常生活上で困っていることを相談でき、法律的に適切な対処法をアドバイスしトラブル回避を図ります。ただし、契約の取消権がない為、委任者本人がした契約を受任者は取り消すことはできません。

4.緊急時の駆け付け、緊急連絡先の指定

身近に頼る親族がいない場合や、身寄りのない人の病院や不動産会社への緊急連絡先として指定することが可能です。

5.各種契約に関する相談

医療、介護福祉サービスの契約や、不動産売買や賃貸契約などの重要な契約を結ぶ際に情報を収集したり、同席することが可能です。また内容の把握のため本人の希望があれば、病院での診察の立会いや医師からの治療説明を受ける際にも同席することが可能です。

6.証明書等の請求手続き

必要に応じて住民票、戸籍謄本や納税証明書などの行政機関の発行する各種証明書の請求・受領手続きを代行できます。

7.貴重品の管理

預金通帳や保険証券、年金関係書類、実印などの貴重品を銀行の貸金庫にて管理することが出来ます。

8.財産の管理

寝たきりや車イス生活をしている人にとって財産管理は非常に大変です。外出することも困難なため、必要に応じて代行してほしいと考える人や、判断能力が衰える前でも信頼できる人に管理を任せたいと思う方もいるでしょう。その場合は財産管理の委任契約を結ぶことで手続きを代行することも出来ます。
しかし財産管理については非常にデリケートな部分なので、信頼できる近親者に引き続きお任せすることも可能です。トラブルを避けるために、定例の収支報告を確実に実施できる第三者もしくは専門家に依頼すると良いでしょう。

  1. 金融機関からの預貯金の入出金 *金融機関によって対応が変わるため窓口にて代理が可能か事前に確認が必要
  2. 家賃や光熱費、税金の支払い
  3. 保険の契約や解約
  4. 保険金の請求
  5. 所有不動産の収入管理 
  6. 介護サービスの契約や変更、解除、費用の支払い

これらの事項を本人の希望や生活環境、家族構成に合わせて自由にカスタマイズすることができ、オーダーメイドの契約にすることが可能です。

見守り契約を結ぶタイミング

任意後見契約とセットで契約する

先述したように見守り契約(一般事務委任契約)は任意後見制度の穴とも言える、判断能力が衰えるまでの空白の期間を受任者が委任者本人が地域社会において安心して暮らすことが出来るように見守り、健康状態を把握しサポートをしながら適切な後見開始時期を判断することが目的の契約となります。そのため見守り契約は任意後見契約と合わせて公正証書契約を結ぶことが望ましいでしょう。

公正証書で契約を結ぶ理由の一つは契約時に本人に意思能力があると証明できるからです。
見守り契約をする人は高齢者が多いので、当事者が私文書で作成してしまうと契約時に本人に意思能力があったことを証明しにくくなります。そのことであらぬ疑いをかけられたり、後々トラブルになってしまうこともあります。

公正証書で作成する場合、公証役場で公証人も本人の意思能力を確認します。もし、本人の意思能力を確認できない場合は作成することはできません。公正証書で契約を締結した事実こそが本人の意思能力を証明することができるのです。

見守り契約のひな型

次に一般的な見守り契約のひな形をご紹介します。作成時の参考にご覧ください。

見守りおよび委任契約書

 本公証人は、委任者○○○○(以下「甲」という)及び受任者○○○○(以下「乙」という)嘱託により、以下の法律行為に関する陳述の趣旨を録取し、この公正証書を作成する。

第1 見守り契約

(見守り契約)
第1条 乙は本日から委任契約が発効するまでの間、原則として月初めの電話で甲に連絡をとるとともに、毎月15日に甲の自宅を訪問して甲と面談して甲の健康状態、生活状況、判断能力の把握に努め、甲が地域社会において安心して暮らすことが出来るように見守る。
 2 乙は前項に定める面談日以外の日であっても、必要と認めた場合又は甲の要請があった場合は随時面談するものとする。
 3 乙は甲が介護・福祉サービス契約を必要とする状況、認知症の発症が疑われる状態と認められた場合等は、関係機関に対応装置の要請を行い、甲が治療を要する傷病を負ったことを知った場合は受診・入院等の手配をする。この場合乙は、関係機関に甲の個人情報を含む一切の情報を提供できる。

(契約期間)
第2条 本見守り契約は、本日から委任契約が効力を生ずるまでの間又は第6条が定める契約が解除されるまでの間又は第7条各項が定める契約の終了事項の生ずるまでの間とする。

(報酬)
第3条 甲は、乙に対し、第1条第1項に定める定期的な訪問と面談による乙の見守り行為の報酬として、月額金○○円(税別)を訪問した月の翌月末日までに支払う。
 
(費用)
第4条 第1条第3項に定める事務等に必要な費用は甲が負担する

(契約の変更)

第5条 本見守り契約を変更する契約は、公正証書によってする。 

(契約の解除)
第6条 甲又は乙は、いつでも本見守り契約を解除することができる。ただし、この解除は公証人の認証を受けた書面によってする。

(契約の終了)
第7条 本見守り契約は、次の場合に終了する
  (1)甲又は乙が死亡した時
  (2)甲又は乙が破産手続開始決定を受けたとき
  (3)乙が後見開始の審判を受けたとき
  (4)甲が法定後見開始の審判を受けたとき
  (5)任意後見契約が解除されたとき
  (6)任意後見監督人選任の審判が確定したとき

第2 委任契約

(契約の趣旨)
第1条 甲は乙に対し、令和○年○月〇日、甲の生活・療養看護及び財産の管理に関する事務(以下「委任事務」という)を委任し、乙はこれを受任する。

(任意後見との関係)
第2条 本契約締結後、甲が任意後見契約に関する法律第4条第1項所定の要件に該当する状況(精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況)になり、乙が任意後見契約による後見事務を行うことを相当と認めたときは乙は家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任の請求をする。
 2 本契約は任意後見契約につき任意後見監督人が選任され、同契約効力を生じた時に終了する。

委任事務の範囲)
第3条 甲は乙に対し、別紙代理権目録(※1)の委任事務(以下「本件委任事務」という)を委任し、その事務処理のための代理権を付与する。
  2 乙は、本委任事務を処理するに当たっては、甲の意思を尊重し、甲の心身状態、生活の状況等身上に配慮するように努める。

証書の引き渡し等)
第4条 甲は乙に対し、本件委任事務処理のために必要と認める次の証書等を引き渡す。
 (1)登記済権利証
 (2)実印、銀行員
 (3)印鑑登録カード、住民基本台帳カード、個人番号(マイナンバー)カード、個人番号(マイナンバー)通知カード
 (4)預貯金通帳
 (5)年金関係書類
 (6)各種キャッシュカード
 (7)有価証券・預かり証
 (8)不動産の賃貸借契約書等の重要な契約書類
 (9)健康保険証、介護保険証、保険証書
 (10)その他甲乙が合意したもの
 2 乙は前項の証書等の引き渡しを受けたときは、甲に対し、預かり証を交付してこれを善良な管理者の注意義務をもって保管し、上記証書等を本件委任事務処理のために使用することができる。

(費用の負担)

第5条 乙が本契約に基づく委任事務を処理するために必要な費用は、甲の負担とし、乙はその管理する甲の財産からその支払いを受けることができる。

報酬)*無報酬の場合は無報酬とする旨の文言に変更する
第6条 甲は、乙に対し、本見守り委任契約事務処理に対する報酬として毎月末日金○○円を支払うものとし、乙はその管理する甲の財産からその支払いを受けることができる。

報告)
第7条 乙は、甲に対し、○ゕ月ごとに、本件委任契約事務処理の状況につき報告書を提出して報告する。
 2 甲は、乙に対し、必要と認めるときは、前項かかわらず、いつでも本件委任契約事務処理の状況につき報告を求めることができる。

(契約の変更)
第8条 本見守り契約を変更する契約は、公正証書によってするものとするものとする。 

(契約の解除)
第9条 甲及び乙は、いつでも本見守り契約を解除することができる。ただし、この解除は公証人の認証を受けた書面によってしなければならない。

(契約の終了)
第10条 本契約は第2条2項本文の場合のほか次の場合に終了する。
 (1)甲又は乙が死亡し又は破産手続開始決定を受けたとき
 (2)乙が後見開始の審判を受けたとき

(契約の終了時の財産の引継ぎ)
第11条 本契約が甲の死亡以外の事由によって終了した場合は、乙はその管理する財産及び帳簿類ならびに第4条第1項により引き渡しを受けた証書等を甲又はその法定代理人に引き渡すものとする。

 2 本契約が甲の死亡により終了した場合は、乙はその管理する財産及び帳簿類ならびに第4条第1項により引き渡しを受けた証書等を遺言執行者、相続人又は相続財産管理人に引き渡すものとする。

令和〇年 〇月〇日
大阪府大阪市旭区〇〇丁目〇-○
甲  ○○ 太郎 

大阪府守口市京阪本通1丁目3番地2号
乙 行政書士 福永 一人 

※1 代理する委任内容を記載したものです。どこまでの代理権を記載するかその内容については状況に応じて慎重に取り決める必要があります。

契約時に取り決める主な内容

  1. 見守り義務の範囲
  2. 連絡を取る方法
  3. 連絡を取る期間
  4. その他の委任範囲
  5. 委任業務を行う際の手数料について
  6. 契約の終了・変更・解除について

まとめ

  • 見守り契約を結ぶことで判断能力が衰えるまでの間、地域社会で安心して暮らすことが出来る
  • 日常生活に関する困りごとや法律に関する相談相手ができる
  • 身近に頼れる家族がいない人、おひとりさまにとって必要な契約である
  • 見守り契約は公正証書で作成するべきである
  • 任意後見契約とセットで締結することで任意後見制度を補完できる
  • オーダーメイドの委任契約を結ぶことが出来る

まとめると、見守り契約(一般事務委任)は、身近に頼れる家族がいない方々にとって最良の選択と言えます。

認知症に備えて任意後見契約を結んでも、判断能力が低下したかどうか見守る人がいなければ申立てを行えず、病気や怪我で何かあっても判断能力がある状態ではその効力を発揮することが出来ません。そのため第三者と見守り契約を結び、自身の健康状態を把握してもらい判断能力の低下に気づいて後見開始の申立てを行うことで、その不都合を補完します。

寝たきりや車イス生活で身体的に不自由だから任せたい、自分でやるのが億劫だからと委任することもあります。生活状況、家族構成を考慮し、本人の希望に沿った内容にカスタマイズすることが出来るので、判断能力が低下し後見開始までの間、安心して暮らすことが出来るでしょう。
そのためには信頼できる人に委任することが大事となります。
もし、身近に適当な人がいない場合や何かお困りの場合は仕業の専門家へ依頼することをおすすめします。

また見守り契約を含む、任意後見契約に関わる各種手続きは、当JPコネクト行政書士事務所でも手配することが可能です。
本記事を読んで見守り契約について詳しく知りたい方はお気軽にご相談ください。

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