家族信託のよくある質問をまとめました

目次

【事例①】賃貸経営している収益に依存している場合の対策方法は?

相談内容

実家は築50年の自宅兼アパートですが、3年前に父が死亡し、足腰が不自由になった80代の母が1人暮らしに不安になり、高齢者向けのマンションで暮らすことを決め、アパートの家賃収入でマンションの利用料を支払っています。
私は長男で、実家まで車で約1時間ほどのところに住んでおり、2週間に1回程度、郵便物のチェックや部屋の空気の入れ換えと軽い掃除のために出向いている状況です。
実家のアパートは将来的には私自身が建て直して住むつもりで、これまでは賃貸で暮らしてきたました。しかし、自分の名義になるのは母が亡くなって相続が終わってからの事です。それまでの間、老朽化していく実家アパートはどうしていくのが良いのでしょうか?これから先も安定的な収入があるとは限らず、認知症になってからでは修繕する費用の捻出、管理等を母が続けることは難しくなります。何かできる対策はありますか?

回答:家族信託によって対策可能です

相談者が危惧するように、現在ご自身で管理していても将来的に難しくなる可能性が高い為、早めに管理できるように対策すべきです。特に築後50年も経過するアパートのため、対策をしないまま母親が認知症になり後見制度を利用することになると、資産活用の自由度は下がり、修繕費としてアパートを維持することはできても、建て替えやバリューアップなどは出来なくなり、家賃収入が漸減することが容易に想像できます。

対策方法としては、生前贈与または家族信託での権利移転が考えられますが、生前贈与の場合、元気なうちに母親が所有権を手放すことを不安に思うかもしれません。そのため家族信託を提案しました。
相談者の長男は将来的に実家アパートを賃貸併用住宅に立て替えて住むことも考えているので、実家の不動産の建物を家族信託で長男に委託します。委託者と受益者は母親、受託者を長男とします。建物は老朽化しているため、管理・運用の権利を持つ長男が建て替え、長男家族はそのアパートに住み、賃貸経営をしながら得た賃料(利益)を受益権のある母親に渡すことで、母親の暮らすマンションの利用料を確保します。家族信託を活用しアパートの権利を長男に信託することで、もし母親が認知症になってもアパートの運用管理を長男が行え、今後も母親の安定した生活を守ることが出来ます。

生前贈与との違いは?

家族信託

信託した財産の管理や運用、処分についての権利を受託者(子などの家族)に託すもの。

生前贈与

生きている間に所有者が自分の意思で決めた人に財産を渡すことが出来るもの。

生前贈与と家族信託はよく比較されていますが、基本的な違いは以下の通りです。
※財産の所有者を親、受託者を子にした場合

家族信託生前贈与
財産の管理子(受託者)
財産の運用・処分子(受託者)
財産から利益を受ける権利親(受益者)
かかる税金相続税
登録免許税(0.4%)
贈与税
不動産取得税
登録免許税(2%)
所有者移転登記必要必要

【事例②】将来、所有者が住まなくなる家を家族信託したい!自分達だけで契約できる?

相談内容

私はこの家の長男で80代の両親と姉と弟がいます。
現在、両親は私共の自宅から車で1~2時間ほどのところに一戸建てに住んでいますが、ここ何年かで弱ってきており、父は要介護1がつきましたが、できるだけ自宅で好きなように暮らしたいということで、相談の上、訪問介護ヘルパーなどのサービスを受けて何とか生活しています。母も高血圧などの心配があり、母に何かあったら父一人では生活できない為、その時は有料老人ホームに入ることを希望しています。しかし、そうなると今暮らしている自宅は空き家になってしまうため、売却するか賃貸にしないと、長期間家の手入れのために、何度も様子を見に行かなければならなくなります。
私たち長男夫婦も姉と弟も、職場の近くに持ち家があるため、実家に住むことはありませんが、家の所有者は父なので、相続前に売却や賃貸手続きはできません。そこで親が自宅で暮らせなくなった時に、不動産の対応を自分達が行えるようにしたいのですが、家族信託は専門家に相談に乗ってもらわないとできない契約なのでしょうか?

回答:専門家に頼まなくても契約自体は可能

家族信託は当事者間の契約ですので、専門家への相談をしなくても自分たちで信託契約書を作成し契約を交わすことは可能です。しかし、信託契約を結ぶ際には法律や税務的な専門知識を必要とするため、難易度は高いでしょう。
万が一作成した信託契約書に不備や無理があると、信託契約自体が無効になってしまうケースもあります。また不動産の場合、登記も行う必要があるため専門家に依頼する方が相続発生時を含めた相談ができるため安心です。

今回の相談内容では、父親を委任者=受益者と設定し、信託する財産は父親の持つ自宅不動産です。受託者に関しては家族会議が必要だと思いますが、仮に長男を受託者とした場合、父親が認知症になって施設に入ることになったとしても自宅の管理、運用、処分を長男が行うことが出来ます。
但し、契約終了のタイミングはしっかりと考える必要があります。場合によっては父親が先に亡くなり、母親が認知症になっているかもしれないことを考慮して、第二受益者を母親に設定しておくことで、母親に判断能力なくなっても長男が信託した財産の管理、運用、処分を行うことが出来ます。

委任者=所有する財産を委託する人
受託者=所有者の財産を「管理、運用、処分する」権利を預かる者
受益者=利益を受け取る人
 (委任者と受益者は同一になることが多い)

専門家に依頼するメリットは法律に則った契約書を作成することだけでなく、自分では気づけないリスクの提示や解決方法などの提案力にある

家族信託は当事者間で結ぶことが出来る契約です。しかし作成した信託契約書の一部に文言が欠けているため無効になってしまったり、脅されて書かされたのではないかと、本人の意思を疑われ家族間のトラブルに発展することもあります。少しでも不安がある場合は無理をせず専門家に頼ることをおすすめします。

家族信託の前にやるべき大切なこと

家族信託を行う場合は、関係者全員で話し合って合意のもと行うことをおすすめしています。

家族信託は契約のため、委託者と受託者の当事者のみで勝手に契約することも可能です。しかし家族関係者全員が納得しないまま進めても、関係が悪化するだけで何もいいことはありません。
蚊帳の外にされた家族関係者は、相続発生時にそのことを知って、勝手に親のお金を使い込んで自分たちの取り分が少なくなったんじゃないか疑念をもちかねません。元々は親や残される家族のためを思い、信託契約したものであっても「親を丸め込んで自分に優位になるようにしたんじゃないか」と思われては本意が伝わらず残念な結果となってしまいます。家族信託をする場合は、以下のポイントを押さえてから行うようにしましょう。

Point!

  • 家族、関係者全員で話し合うこと
  • 不公平感をなくし、納得できる方法を探すこと
  • 関係者全員が家族信託契約を理解すること
  • 関係者全員が家族信託の内容に合意すること

家族信託をする上で、最も大切なのが家族の気持ちと関係性です。家族信託は「信じて託す」という言葉のとおり信頼関係があることが前提になります。もしもご家族の中に少しでも疑う気持ちや、やましい気持ちがある人があると必ず相続時に拗れて”争族”に発展することになってしまいます。

家族の関係性は千差万別です。把握するために一度ご家族の関係図を書いてみてもいいかもしれません。客観的な視点で見ることで気持ちを整理することもできますし、誰から何を相談しようか、兄弟同士である程度まとめてから両親に提案しよう。など、その家族の関係性にあった方法で取りまとめることが出来るかもしれません。

そして、じっくりと今後について話し合い、両親が亡くなった後に発生する相続のことも考えて、どのようにするのが一番良いのか、公平性をなくさず、みんなが納得できるのかを話しながら、取り決めていくことが大切です

もし、ご家族の中に自己中心的な思考で財産に口をはさんでくるような人がいる場合は、家族信託よりも遺留分に配慮した遺言書を書いておくことが得策です。

【事例③】家族信託した不動産の固定資産税は誰が支払うの?収益も税金も受益者にすることはできる?

相談内容

子どもいない1人暮らしの高齢の叔母が、駐車場を所有しておりますが、高齢となり姪の私に家族信託を考えています。 家族信託にすると、駐車場の所有は叔母で、管理・名義が私になり、贈与税はかからないとのことですが、 具体的には、月々の駐車場収益は叔母の口座に入り、固定資産税は私は支払うということでしょうか? 叔母が高齢なので、生活のために駐車場代は必要で、私が管理をするのは構わないのですが、固定資産税の支払いは高額のため難しいと考えています。 今まで通り収益も税金も叔母でと、契約で決めることはできるのでしょうか?

回答:固定資産税は受託者に請求されるが、受託者の財産から支払う必要はない

家族信託された不動産の所有者名義は受託者になっているため、固定資産税の納税通知書は受託者である姪のところに届きます。つまり固定資産税の納税義務者は受託者=姪となりますが、不動産の価値を実質的に有しているのは受益者である叔母のため、姪である受託者が自分の財産から税金を支払う必要はありません。なぜなら、信託財産の管理費用から支払うことが認められているからです。
家族信託をする場合は、別に信託用口座を用意し信託財産を管理します。そこから費用の支払い管理等を行うため、相談者が自身の口座から支払う必要はありません。

信託用口座については信託口口座を用意できなくても、受託者名義の新規口座を「信託専用口座」として用意し、その口座番号を契約書に明記することでも対応可能です。

【事例④】浪費癖のある妹にまとまった金額を相続させるのでなく、家族信託を利用して少しずつ渡すことは可能?

相談内容

私は長男で将来的に発生する父の相続対策について考えています。
父の資産は自宅、賃貸アパート2棟、預貯金ですが、当該財産について家族信託の組成を考えています。受託者を私(長男)として一次受益者を父、父死亡後は二次受益者として私および母、長女、次女を予定しています。二次受益権として母には自宅及び預貯金、賃貸アパート2棟から生まれる家賃収入に対する受益割合を、母が2分の1、私(長男)10分の2、長女10分の2、次女に10分の1と設定したいと思います。
このような考えに至った理由としては、次女には浪費癖があり、まとまったお金を手に入れると、一度に使ってしまうのではないかという懸念がある為、受益権を持たせ月々数万円ずつ渡すことで、財産の散逸を回避出来ないかと考えたからです。

回答:遺留分には留意が必要です。

このような家族信託契約を結ぶことで、希望通り浪費癖のある次女にまとまった金額を渡すのではなく、月々発生する受益分を渡すことは可能でしょう。但し、受益割合については注意する必要があります。例えばこの受益権の配分割合が誰かに偏ってしまったり、次女の分を極端に少なくしてしまうと遺留分侵害とみなされる可能性があります。
遺留分は相続人に与えられた権利で法律で守られており、裁判所では遺留分を潜脱する意図の信託はできないとされているため、もしも訴えられ遺留分侵害が認められた場合は、家族信託事態が無効となってしまいます。そのため家族信託を行う場合は、遺留分に留意して組成するようにしましょう。

家族信託を行う場合は、関係者全員で話し合って合意のもと行うことをおすすめしています。
両親が亡くなった後に発生する相続のことも考えて、じっくりと今後について話し合い、どのようにするのが一番良いのか、公平性をなくさず、みんなが納得できるのかを話しながら、取り決めていくことが大切です

家族関係者全員が納得できるものでないと結果的にトラブルを招きます。

家族信託をする上で、最も大切なのが家族の気持ちと関係性です。家族信託は「信じて託す」という言葉のとおり信頼関係があることが前提になります。もしもご家族の中に少しでも疑う気持ちや、自分だけが得をしようといったやましい気持ちがある人がいると、必ず相続時に拗れて”争族”に発展することになってしまいます。

家族信託の前にやるべき大切なことは

親が元気なうちに、情報共有と合わせて親の想いを家族全員に伝え、家族会議を行い、親子間や兄弟姉妹の誤解や疑心暗鬼、不公平感を解消しましょう。家族信託をするしないに関わらず、親の老後と資産の把握、継承について話し合う家族会議を行うことは、円満でスムーズに資産継承をするために非常に重要なことではないでしょうか。

Point!

  • 家族、関係者全員で話し合うこと
  • 不公平感をなくし、納得できる方法を探すこと
  • 関係者全員が家族信託契約を理解すること
  • 関係者全員が家族信託の内容に合意すること
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