あなたのお葬式は誰が執り行う?おひとりさまのための死後事務委任契約

人が亡くなると関係者への連絡や葬儀をはじめ、それまでにかかった医療費や公共料金の支払い・解約など様々な事務手続きだけでなく、葬儀後の納骨や自宅の片付けも必要です。これらの事務手続きを死後事務と言います。これらの事務は、家族、親族によって行われます。一方、身近に頼れる家族がいないおひとりさまの場合、いったい誰が葬儀やその後の事務、後片付けを担うのでしょうか。そのような方々は第三者に死後の事務を託すことができる死後事務委任契約を結ぶことになるでしょう。このコラムでは、そんなおひとりさまの強い味方死後事務委任契約について説明していきます。

目次

死後事務委任契約とは

死後事務委任とは死後に発生する事務手続きに関して任せたい事務を生前に決めておき、任せる人と契約を締結するものです。
遺言とは担当の範囲が異なり、死後事務の範囲については遺言で定められる以外の事となりますので、かなり広範囲と言えるでしょう。
ではどんなことが死後事務の範囲なのでしょうか?

死後事務委任契約で決められること

  1. 遺体の引き取り、死亡証明書の受領や、死亡届の提出について
  2. 葬儀、火葬に関する事務
  3. 遺骨の埋蔵または収蔵に関する事務、墓じまい手続き
  4. 訃報の連絡、勤務先機関への退職に関する事務
  5. 行政機関等から発行された資格証明書、受給者証の返納
  6. 不動産賃貸借契約の解約
  7. 住居内の片づけ遺品整理
  8. 公共料金等の各種契約に関する解約手続き
  9. 飼っているペットに関する管理

遺体の引き取り、死亡証明書の受領や、死亡届の提出について

入院していた場合は霊安室または病室等にご遺体の引き取りに行かなければなりません。その際に死亡診断書を受領し、手荷物品や貴重品などの受け取りと医療費等の清算事務手続きを行います。そしてあらかじめ指定していた葬儀会社へ遺送手配の連絡を行い、その後役所への死亡届の提出と火葬許可申請等を行います。

葬儀、火葬に関する事務

葬儀場の手配や火葬の予約手続きを行います。これらは葬儀場を通じて行うため、事前にどのような葬儀にしたいか、どこの葬儀場にするのかを決めておくことで、亡くなった後に自分の意思に沿った葬儀を執り行うことができます。
なお、墓理法第3条で「火葬は24時間を経過しなけれは行ってはならない」と記されているため、直葬であっても死亡当日に火葬することはできません。そのためおひとりさまで遺体の引き取り先が無い場合、葬儀場か火葬場に安置することが一般的です。

遺骨の埋蔵または収蔵に関する事務、墓じまい手続き

お墓への納骨や散骨など埋葬方法についてもどのようにしたいのか、考えておく必要があります。
委任者が家墓の名義人である場合は生前に埋蔵されている遺骨の改葬や、墓石の撤去、使用権の返還などの墓じまいを済ませておくことが望ましいですが、死亡するまでは家墓を維持しおておきたいといった希望がある場合は受任者による改葬手続きが可能であるか検討しておく必要があります。
また永代供養以外に最近では海に散骨されたり、樹木葬といった埋葬方法を選ぶ方もいらっしゃいます。その場合にかかる費用についても様々ですので事前にどのようにしたいか決めておきます。

④ 訃報の連絡、勤務先機関への退職に関する事務

自分が亡くなったあとに連絡してほしい人を指定しおくことで訃報の連絡を行います。また、委任者が在職中に死亡した場合は勤務先企業への退職に関する手続き等を行います。なお、死亡退職金、弔慰金などは会社独自の規定に基づき支給されるものなので、相続財産としては取り扱われません。ですのでこれらの事務手続きに関しては「受給者に通知をすること」に留まります。

行政機関等から発行された資格証明書、受給者証の返納

亡くなった後に役所に提出する書類や、届出等の事務手続きは様々のものがあります。まずは死亡届の提出ですが、それ以外にも健康保険証や介護保険証、マイナンバーカードの返却や年金の手続きなどがあります。これらの細かい手続きを行います。

不動産賃貸借契約の解約

死亡した後の住居の明け渡しまでの期間の家賃、管理費などの住居費や、大家不動産管理会社、管理人、保証会社の連絡先の確認、合鍵の返却など、不動産賃貸借契約の解除に伴う事務手続きを行います。また郵便物については郵便法で受任者宅に転送することができないため、受任者が実際に足を運んでポストを確認する必要があります。ポストの開錠方法についても話しておきましょう。

住居内の片づけ遺品整理

持ち家の換価、賃貸契約の解除のどちらにしても、明け渡しまでの期間に住居内の家財道具の撤去、遺品整理を行います。形見分けの希望や、有価物の寄付、など遺品を廃棄物として取り扱われないよう決めておくことができます。
またデジタル遺品と言われる、パソコンやスマホなどのデジタル機器に残されたデータ、例えばネットバンキングや証券、SNSの取り扱いに関してですが、これらを放置してしまうと本人にとって見られたくないプライベートなデータが他人に見られてしまうといったデータの流出やアカウントの乗っ取りの恐れがありますので、事前にこれらの退会手続きや報告などをどのように取り扱うか決めておくことをお勧めします。

公共料金等の各種契約に関する解約手続き

公共料金(電気・水道・ガスなど)の契約解約、固定電話や携帯電話、スマートフォンの契約、クレジットカードなどの様々な契約の解約手続きを行い、未払い金の清算を行う必要があります。

飼っているペットに関する管理

ペットを飼育している場合は、自分が先に死亡した場合に備えて、引き取り先となってくれる知人や団体を見つけておく必要があります。引き取り条件となる飼育料、負担付遺贈やペット信託などの方法を検討します。知人以外ですと里親探しの仲介団体への譲渡や終身飼育施設への譲渡などが挙げられます。

死後事務委任契約書のひな型

上記のことを踏まえて、委任する範囲についてまとまれば契約書案を作成していきます。参考として死後事務委任契約書のひな型を用意しましたのでご覧ください。

死後事務委任契約

第1条 契約の趣旨
 委任者○○(以下、甲という。)と受任者○○(以下、乙という。)は以下のとおり甲が死亡した後の事務を委任し、乙はこれを受任する。(以下、本死後事務委任契約という。)

第2条 委任者の死亡による契約の効力
 1 本死後事務委任契約は、甲が死亡した場合においても終了せず、甲の相続人は委任者である甲の本死後事務委任契約上の権利義務を継承するものとする。
 2 前項の場合において、甲の相続人は履行負担が過重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特設な事由がある場合を除いて本死後事務委任契約を解除することはできない。

第3条 委任事務の範囲 
 1 甲は、乙に対し、甲の死亡時における以下の事務(以下、本死後事務という。)を委任する。
 (1)遺体の引き取り及び搬送の手配、死亡診断書の受領、死亡届の提出及び火葬許可申請、手荷物及び現金その他貴重品の収受など死亡時の緊急対応
 (2)葬儀、火葬に関する事務
 (3)遺骨の埋葬、収蔵に関する事務
 (4)甲の亡き父〇〇母○○の遺骨の改葬手続きに関する事務
 (5)勤務先企業への退職手続きに関する事務
 (6)行政機関等から発行された資格証明書及び、受給者証等の返納手続き
 (7)医療、介護施設の利用や介護サービス等の利用契約の解約手続き
 (8)不動産賃貸借契約、それに付随する火災保険、家賃保証契約解約及び住居明け渡しまでの管理
 (9)甲の住居内の遺品整理
 (10)電気・ガス・水道の供給契約、固定電話、携帯電話、インターネット接続サービス等の通信契約、テレビ放送受信契約、新聞や雑誌等の定期購読契約、クレジットカードの利用契約、生命保険、医療保険、損害保険、個人年金、共済等の保険類契約、その他各種契約の解約手続き
 (11)飼い犬○○の里親探しまたは終身飼育施設への引き渡しおよび引き渡しまでの飼育管理
 (12)SNSアカウントなどの削除
 (13)甲が指定する関係者への死亡通知ならびに郵便物の郵送停止手続き
 (14)以上の各事務に関する費用の支払い
 
 2 甲は、乙に対して、甲が前項の事務処理を行うにあたり復代理人を選任すること承諾する

第4条 葬儀及び火葬
 1 甲の葬儀は、次のとおり行う。
   通夜を執り行わず、葬儀法要のみを行う1日葬とする。
   所在地 ○○
   名称  ○○

 2 納骨・埋葬は次の場所で行う。
   所在地 ○○
   名称  ○○

第5条 遺骨の埋葬、収蔵
 1 甲の遺骨は次の場所で納骨、埋葬を行う。
   所在地 ○○
   名称  ○○
 2 ○○霊園内に埋蔵されている甲の亡き父○○の遺骨は同園内の合葬墓に改葬する
 

第6条 預託金
 1 甲は、乙に対し、本契約締結時に前項の死後事務を処理するために必要な費用及び乙の報酬に充てるために金○○円を預託する
 2 乙は、甲に対し、預託金について預かり証を発行し、預託金を乙の財産と区別して保管する。
 3 預り金には、利息は付けない

第7条 費用の負担
 乙が本死後事務を遂行するために必要な費用は甲が負担するものとし、乙は、預託金からその支払いを受けることができる。

第8条 報酬
 1 甲は、乙に対し、本死後事務の報酬として金〇〇円を支払うものとし、本死後事務終了後預託金からその支払いを受けることができる。

第9条 契約の解除・変更 (以下略)

第10条 契約の終了 (以下略)

第11条 預託金の返還 (以下略)

第12条 報告義務 (以下略)

第13条 免責 (以下略)

第14条 協議 (以下略)

第15条 守秘義務 (以下略)

第16条 管轄の合意 (以下略)

以上のとおり契約が成立したので、本契約書を2通作成し、各自記名押印の上、各1通を保有する。

20○○年 〇月 〇日

住所 大阪府大阪市旭区ー○○ー△△
委任者(甲)○○ △△

住所 大阪府守口市○○ー○○ー△△
受任者(乙)○○ ××

相続人や役所などとの無用なトラブルを避けるためにも、死後事務委任契約は公正証書で作成することをお勧めします。

死後事務委任契約にかかる費用

死後事務委任契約を結ぶことは成人の第三者であれば誰でも結ぶことができますが、これら死後の諸手続きを友人や知人に頼むのは忍びないといった方も実際多くいらっしゃいます。その場合は専門家に依頼することになりますが、専門家に依頼した場合には専門家報酬と公正証書作成手数料が必要になります。報酬の金額は委任内容によって変わりますが、通常200~300万円ほどかかるといわれています。以下に実例を用いて費用感をお示しいたします。

死後事務委任契約例

  • 80代男性、心臓に持病あり
  • 依頼内容は一般的な死後事務全般と遺言執行業務(遺言執行報酬については今回は含めない)
  • 家墓は本人が亡くなった後に一緒に永代供養墓に埋葬を希望

死後事務委任契約例の見積もり

スクロールできます
内容                         報酬     実費     備考
死亡直後(当日)の緊急対応150,000円0円
葬儀・火葬に関する事務手続き100,000円
250,000円直葬(火葬のみ)
遺骨の納骨・散骨に関する手続き100,000円
200,000円合祀による永代供養
墓じまい(改葬)に関する手続き200,000円450,000円お墓の撤去費+寺へのお布施+離檀料+納骨先費用等
関係者への死亡通知(1件につき1,000円)5,000円0円
行政機関発行の資格証明書等の返納
その他届出手続き(1件につき10,000円)
20,000円0円運転免許証、パスポートの2点
入院費・入所施設の利用料の清算手続き
(1件につき20,000円)
20,000円480,000円入院費用自己負担限度額+ベッド代+雑費
不動産賃貸借契約の解除・住居明け渡しまでの管理
(1契約につき50,000円)
50,000円84,000円1か月分の家賃
住居内の遺品整理の業者手配50,000円400,000円家財の撤去処分等
物量によって変動します
公共サービスの契約解約手続き・清算
(1契約につき20,000円)
60,000円15,000円電気・ガス・水道
携帯電話・固定電話の解約手続き・清算
(1契約につき20,000円)
40,000円8,000円2契約分
インターネット契約の解約手続き・清算
(1契約につき)
20,000円5,000円
クレジットカードの解約手続き・清算60,000円200,000円3契約分と未払金の清算
医療保険の解約20,000円0円
住民税の清算20,000円180,000円
SNSやメールアカウントなどの削除
(1アカウントにつき)
10,000円0円
予備費227,200円将来の実費分の値上げに備えて実費合計の10%を預かります
小計925,000円
合計3,482,000

死後事務委任契約を検討する必要がある人

  1. おひとりさまと言われる単身者(独身、配偶者と死別した人)
  2. 二人暮らし世帯(夫婦のみ、親子のみ)で、もしもの時に頼れる人がいない人
  3. 家族や親族はいるが高齢で死後事務を依頼できない
  4. 家族や親族に負担をかけたくない人
  5. 火葬以外(散骨・樹木葬など)を希望する人
  6. 内縁関係のパートナーがいる人

死後事務委任契約をしない場合どうなるのか

死後事務委任契約を行わずに全く身寄りのない人が亡くなった場合、そのご遺体の火葬や費用がどうなるのかご存じでしょうか。入院していて病室で亡くなった場合はすぐに発見されますが、住宅で亡くなった場合は発見が遅れる可能性が高いです。いわゆる孤独死ですが、発見が遅れれば遺体の腐敗が進み、ニオイや害虫、体液の浸潤で床材の損傷が起きます。不動産の価値を下げることになり修繕費用も非常に高くなります。このことから近年では高齢の単身者へ賃貸契約をすることを嫌がるオーナーや不動産業者が少なくありません。

また火葬については直葬を行うことになります。廉価な納骨堂へ遺体を安置する葬送にかかる費用は一人当たり20~25万円となり、安置しておく場所のコストもかかります。火葬後は合祀(ごうし)墓に埋葬されることになります。合祀墓とは大きなお墓の下で複数の遺骨をまとめて埋葬するお墓のことで行政に委託された霊園、寺院などが管理を行っています。さらに火葬、埋葬費用は亡くなった方の遺品の中に残された財産から充当されますが、足りない場合は自治体が負担することになり、皆さんの税金からその費用を賄っているということになります。

このように準備をせずに亡くなった場合でも、その後処理に人手や様々な費用がかかることがおわかりいただけたと思います。「周囲に迷惑をかけたくない」「尊厳のある死を迎えたい」と考えられる方々にとって、死後事務委任契約は「契約」によって受任者との間に家族的な繋がりを擬制することで、おひとりさま(単身者)の抱えるリスクや不安を解消できるサービスだと考えています。亡くなってからの煩雑な事務処理を依頼した第三者に任せることができるため、生前準備として検討しておくことも必要ではないでしょうか。

死後事務委任契約を結ぶタイミング

それでは、死後事務委任契約はいつの段階で行うことが良いのでしょうか。事前に遺言書を用意していれば死後事務委任契約を結ぶ必要はないのでしょうか。答えは「いいえ」です。死後事務委任契約と遺言書や任意後見とはそれぞれの効力や範囲は異なるからです。効果範囲と関係性については後述します。

死後事務委任契約は生前に結んでおく必要があることはもちろんですが、認知症を発症してしまうと本人の判断能力がないため、契約を結ぶことができなくなります。ですので、一番理想的なタイミングは体力的にも元気なうちに老後の備えとしてしっかりと検討してから信頼できる人と契約することです。また死後事務委任契約だけでなく任意後見契約と併せて結ぶことが一般的です。そして体調に問題を感じ始めた頃が最終の契約タイミングになるでしょう。

死後事務委任契約は認知症になってから検討するのではもう手遅れ。

遺言書・任意後見・死後事務委任の関係性

それでは、次に遺言書と任意後見と死後事務委任契約の違いとその関係性をみていきましょう。
各々の効果範囲についてはこちらのとおりです。

  • 遺言書…財産相続、身分に関すること
  • 任意後見…認知が進んだ後に行う財産管理・身上監護の代理行為
  • 死後事務委任契約…遺言書に書かれていないその他の死後事務に関する委任行為

まず、遺言書については本人の財産の処分方法と相続人の身分関係の確定に関してのみ法的効力を持ちます。ですので死後の処理(葬儀や埋葬方法)について遺言書で書いていたとしても強制力がないため、実行されるかどうかはわかりません。たとえ遺言執行者がいても法的な強制力がなければ、遺言内容を実行することは難しいでしょう。

また任意後見契約については判断能力が低下した場合に任意後見人が本人の財産管理と身上監護を代理で行うもので、本人が生きている間のみ有効となる契約のため、死後に行わなければならない事務については効力を待ちません。

そして死後事務委任契約は、本人の死後に効力を発揮する契約形態で、火葬や葬儀など以外に遺言書では書かれていない委任された事務内を容実行することができます。それゆえ、死後事務委任契約は、遺言書と任意後見では出来ないことをカバーできる契約サービスになります。

おひとりさまの老後に対する「備え」として最も良い方法は、遺言書を作成し、認知症に備えた任意後見契約などと一緒に死後事務委任契約を結ぶことです。

まとめ

ここまで死後事務委任契約についてどのようなことが出来るのか仕組みについて解説してきましたが、いかがでしょうか。
身近に頼る人がいない人にとって、死後事務委任契約は本人の意思を尊重した最後を迎えることができ、死後に起きる手続きを円滑に進めることができる方法です。そして第三者である受任者とはしっかりと信頼関係を築いておくことが大事になります。財産や生活状況を考えサポートしてくれるような専門家に依頼することも検討しましょう。

また、今回解説した死後事務委任契約はおひとりさまの抱えるリスクや不安を解消することができる契約サービスではありますが、死後に対する備えであり、その効力は生前にはありません。そのため老後の備えとして遺言書と認知に備えた任意後見契約を併せて死後事務委任契約を結ぶことが望ましいと言われています。

死後事務委任契約だけではなく任意後見契約などと一緒に契約を結ぶことで「老後」に対する備えが万全になるでしょう。

年齢を重ね、認知症になってからでは遅いので、元気なうちに自分自身がどのような最後を迎えたいか、またそのためにどのような制度を活用すればいいのか、生前準備として一度考えてみてはいかがでしょうか。

なお、JPコネクト行政書士事務所では老後に備えた死後事務委任契約を任意後見契約と併せて行うことが可能です。
依頼者に寄り添い、不安なときになんでも相談できる専門家として業務を行っておりますのでどうぞお気軽にご相談ください。

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